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[第63話]
宿命に挑む小さな勇者!
その魂の叫びが天を動かす!!


 北斗神拳が通じない。その理解不能の現実を払拭するかのように、再びサウザーの体に連撃を浴びせるケンシロウ。だがいくら突けどもサウザーが砕け散ることはなかった。拳の速さ。寸分狂わぬ秘孔への突き。拳の勝負では明らかにケンシロウの勝ちだった。だが勝利を勝ち得たのは、サウザーの持つ帝王の体であった。極星十字拳に為す術無く切り刻まれ、地に伏すケン。敗者となった北斗神拳伝承者を踏みつけるサウザーの高笑いは、この世に光を取り戻す希望が消え去ったことを告げているかのようであった。

 ケンシロウ敗北の報は、レジスタンスの一人によって、アジトへと届けられた。聖帝はトドメを刺さず、まだケンシロウを生かしている。しかし・・・。そう言って言葉を濁した報告者に、リンは全てを包み隠さず話すよう言った。たとえどんな事があっても、ケンの帰りを信じ、待ち続ける。それが今のリンに出来る精一杯のことだったのだ。しかし、つきつけにれた現実はやはり厳しかった。おびただしい出血のケンに残された命はあとわずか。リンもバットも、ケンへの信頼だけで己達の涙を止めることはできなかった。

 夜になってもシュウにはケンを助け出す策が思いつかなかった。そんな時、自ら十字稜へ潜入し、ケンを助けださんと名乗り出た者がいた。シュウの息子、シバである。シバはかつて十字稜にもぐりこんだ経歴があった。そして、自ら見たケンの強さ、優しさ。そしてリンをあそこまで信じさせるケンの持つ何か。もはやシバの中で、ケンは自らの命を賭してでも救い出さねばならない存在となっていたのである。シュウは、南斗白鷺拳の伝承者であるにもかかわらず、シバに拳を継がせようとはしなかった。それは、シバにまで仁の星の宿命を背負わせたくなかったからであった。だが、仁の星の血は、シバの体の中にも脈々と受け継がれていたのだった。

 ケンは、聖帝十字稜の地下牢に繋がれていた。聖帝がケンを殺さなかった理由、それは、北斗神拳伝承者であるケンを人柱として十字稜に埋めるためであった。生きたケンを人柱とし、初めて十字稜は完成を向かえることになるのだ。そして、今のケンにはもはやその牢から脱出する力すら残されていなかった。薄れ行く意識の中でケンが巡らせるのは、あのサウザーの肉体の謎だけであった。

 人柱が見つかった事でいよいよ完成を間近に控えた聖帝十字陵。その模様を満足気に眺めるサウザーに、本日の昼食が用意された。見た事も無いような御馳走の並ぶ食卓に、たった一人座って食べ始めるサウザー。食卓の周りに立たされた子供達は、その様子をただ眺めさせられるだけであった。しかし、少し口に合わなかったという理由だけで、サウザーはこの御馳走を食卓ごと蹴り倒してしまう。立たされていた子供の一人は、見つからぬよう一欠片の食べ物を拾おうとするが、彼らにはそれすらも許されなかった。お前達が飢えても聖帝様は飢えぬ!情け無用の言葉を浴びせられても、子供達にはただ泣いてそれを受け止めることしか出来なかった。しかし、その中でただ一人、希望を失ってはいない瞳を持つ少年がいた。食べ物を拾おうとして蹴飛ばされた子供を介護するその少年は、あのシバであった。

 不信な物音を耳にし、緊張を走らせるケンの牢の見張り達。しかし、それはシバの罠であった。おびき寄せた見張りたちを不意打ちで倒したシバは、すかさず牢の鍵を奪取。牢へ入り、鉄鎖を外し、見事ケンシロウ救出を果たした。しかし、子供のシバの体では、傷ついたケンを運ぶには限界があった。旧時代の下水道を通り、なんとか聖帝の町を出ることには成功したシバであったが、もはや追っ手が来るのは時間の問題であった。俺を置いて逃げろ。敗者である自らの無力さを伝え、シバだけでも逃がそうとするケン。しかし、一度目覚めた仁の星はそう簡単に消えるものではなかった。貴方が生きている限り希望の灯は消えない。リンと同じ、最後までケンを信じ続ける瞳が、そこにはあった。だが、二人が岩陰で休んでいたその時、遂に追っ手のバイク音が二人の元へと近づいてきた。もはや二人では逃げ切れない。そう思ったシバが選んだ選択は、自らが囮になり、ケンを逃がすことであった。懐に隠されたダイナマイトが、シバの哀しき仁の星の宿命を物語っていた。生きて希望の光を灯し続けてください。それが、シバの最後の言葉であった。自らを制止しようとするケンの呼びかけを振り切り、一人荒野の真ん中へと立つシバ。目論見通り追っ手達が取り囲んだのを確認した後、シバは静かに火のついたダイナマイトを取り出した。怯える正規軍の顔とは対照的に、シバの顔は笑みが浮かんでいた。そして次の瞬間、シバの体は轟音と共に荒野の風に消えたのであった。

 シバがケンの体の血をぬぐうために破った服の袖。その切れ端を握り締めるケンの顔に、大粒の涙が溢れていた。哀しみだけではない。シュウだけではなく、その息子シバにまで命を救われた事に対し、自分自身への情けなさ、悔しさ、そして怒りが溢れていたのだ。二人のためにも生きねばならない。半死半生の体を引きずり、必死でその体を突き動かすケンシロウ。しかし超人的な体を持つケンでも、もはや生きてアジトまで帰れる体力は残ってはいなかった。砂嵐の中、最後の体力までも使い果たし、気を失うケン。だがその砂塵の向こうには、倒れたケンの姿を見続ける瞳があった。

放映日:86年2月13日


[漫画版との違い]
・原作では人中極が通じなかった後は3度点穴を突いただけだが、アニメではアタタタを2度も繰り出す
・ケン敗北の報がシュウ達へと伝えられ、リン達がショックをうけたり、シバがケン救出を決意するシーン追加。
・原作の地下牢は床が水だが、アニメでは普通の床
・ケンを連れたシバが、旧時代の下水道を通って聖帝十字陵から逃亡するシーン追加。
・自らを運ぶシバに、ケンが「俺は奴に負けた」とか情けない発言をするシーン追加



・弱気
シバがケンを担いで逃げているとき、アニメではケンがえらく弱気な発言をする。「俺にはもうそんな力はない・・・俺は奴に負け、グホッゴホッ」てな感じで。ケンって負けても悔しさを表に出さずに着々と復讐のプランを立てている感じのキャラなのに。シバを巻き込みたくないからわざとこう言ったのだとしたら、なかなかの演技力だけどね。本当にものすごくダメっぽい口調だから。まあ、ダメなんですけどねほんとに。
・聖帝様のメシ
あんだけ同時に食卓に並べたら、後半冷めてると思うんですけど。まあ、本当に最初から全部食べるつもりだったのかは疑問ですが。ていうか全部食べる場合、遠くの料理はどうするんでしょう。子供に取ってもらうんかしら。


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