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[第99話]
悲しき五車星!
お前は愛と宿命をひきずる女!!


 ケンシロウとラオウ。宿命の二人が鉢合わせたのは、南斗最後の将、ユリアの待つ南斗の城の目前であった。ユリアを己の前に跪かせ、自らの覇道を完成させんがため、南斗の城の中へと黒王を駆るラオウ。遅れてはならないとすぐに後を追おうとするケンシロウであったが、その行く手は爆炎によって遮られてしまう。粉塵の中から現れたのは、拳王の影として寄り添い、影として行動する隠密集団、拳王影部隊であった。一刻の猶予もないケンシロウは彼等を蹴散らさんと飛びかかるが・・・

 自らの部屋で瞑想するリハクの下へ、拳王襲来の第一報が入れられた。そして、ケンシロウは未だ現れてはいないことも。拳王を南斗の城へ一歩も入れさせるな!命を受けたリハクの部下、海の兵団たちは武器を手に取り一斉に城の防衛へと走り出す。一方、将の部屋では、まもなく訪れようとしている運命の時を、ただひたすら待ち続けるユリアの姿があった。先着したのは拳王。響いてくる兵士達の叫びから事態を把握し、ユリアの身を案じるトウ。しかし、この非常時においてもユリアは落ち着き払っていた。自分はただケンシロウを待ち続けるだけ。例えどんな運命が自分に降りかかろうと、それが自らに課せられた宿命なのだ、と。

 遂に正門前へと辿り着いたラオウ。その行く手を阻む強固な扉も、覇道完成を目前にしたラオウにとってはなんの障害にもならなかった。たった一撃の剛拳で扉を粉砕したラオウは、高笑いを上げながら真っ直ぐ城に向かって突撃を開始。その行く手には海の兵団の大軍勢が犇いていたが、拳王と黒王の最強コンビの前においては彼らはただの雑草に過ぎなかった。

 その頃ケンシロウは、まだ拳王影部隊を相手に戦っていた。残るはあと一人、隊長のみ。だがその時、ケンシロウの体が強烈な痙攣に襲われた。ケンの体に幾多ものかすり傷を作った影部隊の武器には、全てしびれ薬が塗られていたのである。強烈な眩暈、そして遂にはヒザをついてしまうケン。止めとばかりに、剣を振り上げる影部隊隊長。しかし、その剣を振り下ろすことはできなかったなかった。突如ケンが唸り始めたかと思うと、その体はゆっくりと起きあがり、何事もなかったかのように再び立ち上がったのである。気をもって体内の経絡を活性化し、毒を体外へと排出する。それはまさに暗殺拳、北斗神拳ならではの解毒法であった。勝機を逃した影部隊隊長は、手裏剣を投げて攻撃。二指真空把で返されたそれを自らも剣で弾くが、その一瞬の停止時間をケンは見逃さなかった。強烈な正拳で顔面を殴られ、吹き飛ぶ隊長。勝負はついた。しかし、彼らは"ケンシロウの足止め"という任務を、見事に遂行したのであった。

 黒王を駆り、螺旋階段を駆け登っていくラオウ。辿り着いた先の部屋には、海の兵団に守られた一人の人物がいた。全身を鎧に纏ったその人物こそが、ラオウの求めた南斗最後の将であった。黒王の背から降り、ゆっくりと将へと向けて歩を進めるラオウ。永かった・・・。そう漏らしたラオウは、自らの心にユリアが焼きついた日を思い出していた。

 北斗神拳の道場で、実践に近い組み手修行を行う若き日のラオウとリュウケン。容赦なく放たれるリュウケンの拳は、まだ未熟なラオウの急所、秘孔を的確に捉えていく。ラオウが動けなくなった時をもって、修行は終了。秘孔をかわす技を身につけろ。そう言い残し、瀕死のラオウを置いてその場を去るリュウケン。瞼一枚、指一本すら動かせぬまま放置されたラオウは、死すら予感していた。だがその時、何者かがラオウの血をぬぐった。そしてその手がラオウへとかざされた瞬間、ラオウは確かに己の体からダメージが引いていくのを感じたのである。それはとても優しく、暖かい力であった。僅かに動くようになった体を起こし、その者の正体を見ようとするラオウ。半分とじたままのその瞼の向こうに見えたもの、それは幼き頃のユリアの微笑であった。

 自らの命を救った、神と見まごうほどの暖かい光を持つ女、ユリア。その力を体感したあの瞬間こそが、ラオウがユリアを我が物にせんと決めた瞬間であった。そして目前にまで迫ったその野望へと向け、一歩、また一歩とその歩を詰めるラオウ。なんとかその歩を止めんと一斉に攻撃を仕掛ける海の兵団であったが、突き立てた斧は、槍は、ボロボロとその場に崩れ去った。そしてラオウが左手を振った瞬間、彼らの体もまた四散したのであった。仮面を取ってその顔を見せてくれ!ラオウのその呼びかけに応えることなく、その身を捩じらせる将。しかしその僅かな動きを見た瞬間、ラオウはある事に気付いた。違う・・・。目の前の鎧の中身がユリアではないことを、ラオウは瞬時に悟ったのである。怒りをこめた拳で、仮面を破壊するラオウ。仮面の下から現れたのは、リハクの娘トウであった。

 ユリアを守護するのが五車星の役目。そして海のリハクの娘であるトウもまた、ユリアを守護する宿命にある―――。この事態をラオウはそう考えたが、トウにとって、このラオウとの対峙はそれだけではなかった。トウの目から突如流れ落ちた涙。それは、自らがラオウの敵として目に前に立たなければならない己の宿命に流した涙であった。幼き日、ラオウと初めて出会ったときから、トウはラオウに恋心を抱いて今日まで生きてきたのであった。

 草原を駆けていくのは、幼き日のトウと、それを追う狼の群れ。崖淵に追い詰められ、まさに絶体絶命。唸りを上げてトウに飛び掛る狼。しかしその時、何者かが投げた石つぶてが狼の横っ面に命中した。間一髪のところでトウを救ったその少年こそが、若き日のラオウであった。自らを取り囲んだ狼達を一瞬にして蹴散らすラオウ。礼を言ってきたトウに対し、ラオウはこれも修行だと言い残し、素っ気無くその場を後にした。しかし、助けられたほうの少女は、完全にそのヒーローに心奪われていた。

 やがて月日が経ち、二人もそれぞれ成長した。しかし、トウの想いは年を重ねても一向にラオウに届きはしなかった。血をぬぐおうとトウが差し出した手を、冷たく払いのけるラオウ。それでもただ一途にラオウを想い続けるトウであったが、ある日、トウはラオウが自らに魅かれぬその原因を知ることとなった。子供達と折り紙で遊ぶユリア。そのユリアを無理矢理我が物にせんとするラオウ。その凶行を止めるトキ・・・。かつてトキがマミヤに語った、皆がユリアに魅かれている事を表すワンシーン。この時、トウもまた、物陰からその一部始終を目撃していたのだった。


 ユリアの心がケンシロウにあるかぎり、その心がラオウに向けられることは無い。そう言ってユリアを諦めるよう伝えるトウであったが、そんなものはラオウにとって意味は無かった。その者が誰を愛していようが最後に自分の傍にいればいい。それがラオウの考え方だったのだ。ユリアの持つ宿星、慈母星。幼くして母をなくしたラオウは、ユリアのその慈母に心惹かれ、そして追い求めていたのだった。

 最後までラオウの心を掴めなかったトウに残されたのは、もはや五車星としての使命を果たすことだけであった。ラオウの腰にあるナイフを抜き取り、その切っ先をラオウへと向けるトウ。しかし、こんなものでラオウを殺せないことなど、トウも判っていた。宿命と愛の板ばさみにされた彼女が選んだ道、それは、切っ先を己の胸へと突きたてて、自決する事であった。覚えていてください。トウを哀れと思うなら・・・。それが、トウの最後の言葉であった。しかし、ラオウはその死に様をも否定した。全ては力で奪い取るもの。想いが届かないのなら、その相手を殺し、一生自分の物とすればいい。それがラオウの考える決着の付け方であった。そして、それはユリアとて例外ではなかった。己の想いが届かねば、ユリアにも死あるのみ。従順か死か、ユリアに迫り来るのは、その回避不能の二択であった。
放映日:86年12月18日


[漫画版との違い]
・拳王影部隊との戦闘シーン追加
・リハクが兵団たちに指示を出したりするシーン追加
・海の兵団が必死に城門を押さえるシーン追加
・トウが初めてラオウとであったシーンから、その心がユリアにあることを知るまでの回想追加
・トウが引き抜いたナイフを一時ラオウへと向けるシーン追加

・原作ではケンとラオウが出会ったのは城の門の前だが、アニメではそれより若干門より遠い



・幼女ユリア
ゴッドハンドで幼いラオウ様の傷を癒したユリア嬢。でも癒したっていってもやっと首を起こせる程度であって、まだそのからだはボロボロの瀕死状態。そんな相手に向かって「ウフ ウフフフ ウフフフ ウフフフフフフフフ」はないだろう。怖すぎんぞ。流石幾多もの男達の心を手玉にとる魔性の女ですね。
・トウ狂ラブストーリー
元祖拳王様に恋した女・トウ。原作では拳王様のどこに惚れたのか明確にかかれなかったが、アニメでは納得して更に一周してしまうほどに強烈な出会いが描かれた。バーン参上して、ズバーっとオオカミ倒して、お前を助けたわけじゃない、これも修行だ・・・って、いくらなんでもクサ過ぎます拳王様!!でもこれでガキンチョのトウのハートはメロリンQ。その後、必死で露出度高い服でアタックしてる姿、泣かせます。もう、フケ顔でさえなけりゃねえ・・・


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