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[第106話]
悪夢におびえるラオウ! 
ユリア、もうお前しかいない!!


 フドウとの戦いを終え、城に戻った拳王軍団達。だが拳王の、あのフドウへの投射に対する部下への怒りは未だ収まっていなかった。手当たり次第に周囲の部下達を殴り飛ばし、止めに入った拳王軍団の団長に対しても、秘孔を突き、その肩を破壊するラオウ。もはや、その嵐のような乱心を止められる術などあるはずもなかった。拳王の命令どおりに、軍団達はその場を後にするが・・・

 広間に集まり、拳王から受けた傷に悶え苦しむ拳王軍団達。己達の理解できぬそのラオウの行動に、軍団達の中には頭首への不信感を募らせる者もいた。その時、異常な雰囲気を察知したユリアが広間へと現れた。団長より事のあらましを伝えられ、哀しげにその光景を眺めるユリア。彼女に出来ること、それは少しでも彼らの痛みをやわらげてやる事であった。そっと団長の肩に手を置くユリア。すると次の瞬間、優しいオーラが流れ出したかと思うと、先程秘孔で破壊されたはずの肩の痛みが、完全に消えてしまったのである。その後も瀕死の兵士達を、手をかざすだけでユリアは治していった。それはまさしく、南斗の将としてユリアに授けられた、慈母星の慈しみの力であった。唖然とする兵士達に向かい、ユリアは言った。北斗の長兄としてケンシロウと戦うことこそがラオウの宿命。闘いに全てをかけて生きるその男の心をわかってやって欲しい、と。自らを連れ去ったラオウに一片の恨みも抱かず、その心を理解しようとするユリアのあまりにも深い愛に、その場の兵達は完全に心奪われていた。いつしか彼らは、自然と、その女神の前に片膝をつき、服従を誓っていたのだった。

 フドウの埋葬を終えたケンシロウ達の前に、海の兵団達が駆けつけた。拳王軍団内部分裂。拳王敗北の報を聞き、各地で反乱が起こり、逃亡する兵士も後を立たない―――。彼らがもたらしたその情報は、次代を揺るがす、拳王軍団の崩壊の序曲であった。今が機とばかりに、村々を拳王の支配下から解放せんための兵を招集するリハク。恐怖によって成された拳王の野望は、今足元から崩れ去ろうとしていた。その奇跡を起こしたもの、それは紛れもなく、フドウの死をかけた戦いに他ならなかった。

 部屋の中に炊かれた炎。その中に無言で手を入れたラオウは、真っ赤に燃える焼き石を手にし、そのまま粉々に砕いた。業火でさえ己の体を焼くことはできない。無類無敵の肉体。されど哀しみはその肉体をも凌駕する。哀しみ・・・。自らに足りぬその力の正体を必死で模索するラオウ。その時、ラオウの頭に、トウの言葉が響いた。ラオウ様の心はユリア様に・・・。その瞬間、ラオウの中にある答えが導き出された。ラオウが哀しみを背負う唯一の方法とは・・・

 五車の星を失い、哀しみに満ちた霹靂の空を見上げるユリア。そんな彼女の前に、ある決意を胸にしたラオウが姿を現した。お前の命を俺にくれ!開口一番、ラオウはそうユリアに告げた。己とケンシロウに力の差は無い。あるのは哀しみの壁。ラオウが哀しみを知る方法、それは哀しみを呼び起こすと言われる愛を失うことによってより他にない。それは、ユリアの死をもってしか成しえないことであった。覚悟を決めるよう告げ、一気にユリアへと詰め寄らんとするラオウ。だがその時、何者かの放った一本の矢がラオウの足を射抜き、その歩を止めた。射ったのは拳王の部下達であった。どうかその方の命だけは!そう言って跪き、ラオウへと懇願する拳王軍団達。慈母の星の優しさに触れた彼らにとって、もはやユリアは己たちの命を投げ打ってでも守らねばならない存在へとなっていたのである。しかし、ラオウにはその願いは聞き入れられなかった。ケンシロウしか見えない今の自分にとって、哀しみを知ることこそが何よりも優先すべき事であったのだ。そして、そんなラオウの気持ちを一番汲んでいたのは、ユリアであった。今の自分に出来るのは、男達を気兼ねなく闘いの場へ送り出すことだけ。ラオウの射抜かれた傷の手当てを終えたユリアは、静かにラオウに背をむけ、目を閉じた。それは、己が見つめていては突きにくいであろうという、既に死を覚悟したユリアにできる唯一の配慮であった。ユリアには見えていた。訪れようとしている光の時代が。その光のために、ケンとラオウの戦いは避けられない宿命。そしてその闘いの礎となり死ねることは、ユリアにとって本望でもあった。そんなユリアの想いを聞いた瞬間、ラオウの中にある感情が湧き上がって来た。その正体を、ラオウはかつての日にトキにより教えられていた。

 若き日のケンシロウとユリア。当時、既に二人は恋人同士となっていた。幸せそうに並んで歩く二人。そんな姿を建物の上から眺めていたのは、ラオウとトキであった。美しき南斗の娘ユリア。彼女を我がものにすることも野望の一つだと宣言し、不敵に笑うラオウ。しかし、トキはそれを否定した。それは野望ではなく愛だと。今はわからなくとも、いつかそれは涙となって貴方を突き動かす。その時貴方は愛を知るであろう、と。

 ラオウの頬を涙が伝う。それはあの日トキが予言した、ラオウが愛を知った証に他ならなかった。その時、ラオウは確信した。自らがユリアを追い求めていたのは愛ゆえにであるということを。しかし、今のラオウにはユリアとケンシロウ、二つを選ぶことはできなかった。許せユリア!我が心に哀しみとなって生きよ!ラオウが選んだのは、やはりケンシロウとの戦いであった。愛するものへと向けられたラオウの拳。叫びにも似た雷鳴轟く中、その凶拳は、無情にもユリアの背へと放たれたのであった。

 フドウの村に集まるケン達のもとに、久しぶりの雨が落ちてきた。続く乾季を潤すはずの恵みの雨。しかし、リン達の眼にはそれが空が泣いている様に見えた。良からぬ不安をその胸へと走らせる一同。彼らの、その予感は当たっていた。遠く離れたラオウの城では、力なくうなだれたユリアの体が、ラオウの腕に抱かれていた。

 雨に霞む地の果てから、ケン達の前に現れた巨大な影。それは、ラオウの愛馬・黒王号の姿であった。背に拳王の姿のない黒王の登場。それは、ラオウがケンシロウを呼んでいるという意であった。リハクに後のことを任せ、一人黒王の背に跨るケン。一緒に行きたい気持ちのバットとリンであったが、そこに二人が呼ばれていないことは自分達もよくわかっていた。北斗の掟は俺が守る。そう言い残し、ケンは遂に最後の闘いへと向けて走り出す・・・

 黒王号がケンを運んできたのは、北斗練気闘座と呼ばれる所であった。数々の伝承者争いの闘いが行われた、北斗神拳の歴史の中で最も神聖な場所。いまは核により見る影もなくなったその廃墟こそが、ラオウが最後の戦いに選んだ場所であった。そしてラオウは、既にそこでケンシロウの到着を待っていた。黒王の背から降り、ラオウの前へと立つケンシロウ。今、北斗二千年の血の宿命は、二人の戦いへと姿を変え、終焉を迎えようとしていた。
放映日:87年2月12日


[漫画版との違い]
・拳王軍団員がラオウに殴られ、別室へ撤退するシーン追加
・原作では軍団長がユリアの所に赴き報告するが、アニメでは軍団達が集まる広間へとユリアが訪れ、そこで報告される。
・広間での拳王軍団の傷をユリアが治したりするシーン追加
・ラオウが哀しみを知る道を模索中にトウの言葉を思い出すシーン追加

・リハクに、世界で反乱が起きているという情報がもたらされるシーン追加

・原作でラオウが涙するのはトキとの回想の前だが、アニメでは後
・雨が降り出し、リン達がいやな予感を感じる場面追加
・原作で黒王が現れたのはケン達三人のときだったが、アニメではフドウの村。
・原作で雨がやんだのは黒王が現れる直前だが、アニメではラオウの下へ駆ける途中
・原作ではリンとバットも馬に乗ったが、アニメではケンだけ


・拳王軍団
ぶん殴られてめんたま飛び出して(前話)秘孔で肩を破壊されても結構平気な感じな拳王軍団団長さん(ザク様?)。彼ももちろんすごいですが、拳王様の本気の攻撃を受けても瀕死とはいえこれだけ生き残っているのがすごい。流石拳王軍団の本隊。おそらく個々の強さでも歩兵10人分くらいの戦力はあるのでしょう。
・放射能とか大丈夫か
天が泣いてるみたい・・・とかなんとか言って文学的なこと言ってますが、結局全ての入れ物総動員して雨水を溜めている絵が涙を誘います。時代の夜明けは本当に近いのか、疑ってしまいます。


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