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[第124話]
何が待つ暗黒大陸! 
そこは伝説の修羅の国!!


 バット達は、死の海の彼方を眺めていた。戦いの非情な掟が支配する魔界、修羅の国。その地獄からリンを救い出すことは、ケンやファルコの力をもってしても容易ではないだろうとリハクは語る。生まれてから今まで、そしてこれから先もリンの前に広がっているのは苦難の道。妹リンにばかり訪れるその不遇の運命をルイは憂う。だが、バットは信じていた。リンはいつもそんな境遇を潜り抜けてきたこと。そしてその影には、いつもケンの力があったことを・・・

 ファルコを倒したその修羅は、まだ名を名乗ることも許されていない下っ端の修羅であった。しかしその修羅ですら数百の屍を築いて初めて修羅と呼ばれるようになるのだという。無論、その強さは今のファルコの姿がなによりも証明していた。そしてその毒牙は、今度はケンシロウに向けて襲い掛からんとしていた。千手魔破。そういって修羅は、特殊な手裏剣をケンへと向けて放った。だがその手裏剣は、ケンに飛来する途中に突如宙で消失。既に勝利を確信するその修羅の自信は、ケンの足元から訪れた。いつの間にか地面の中へともぐっていた手裏剣が、ケンの足元から一斉に飛び出して来たのである。予想外の攻撃に敵は串刺しに・・・。その死に様をみんと振り返った修羅であったが、その視線の先から飛んできたのは投げ返された手裏剣であった。不意をつかれても、常人とかけはなれたケンの反射神経はその手裏剣をすべてキャッチしていたのであった。

 技を破られた事よりも、修羅は投げ返した手裏剣をわざとはずしたケンシロウの甘さを指摘した。敗北が死を意味するこの国において、情けをかけることは愚の骨頂。それはファルコが身をもって体験したことだ、と修羅は語った。先程の戦いの最中、ファルコは跳び蹴りを迎撃された際にバランスを失い、義足がはずれるというアクシデントに見舞われた。修羅は無論、情けなどかけなかった。ここぞとばかりに、棍でファルコを殴り続けたのだ。手段を選ばず勝つ。その修羅の闘い方を、北斗神拳伝承者であるケンは認めようとはしなかった。

 足が折れなければファルコが勝っていた。その言葉の意味を教えんと、修羅に立ち向かうケン。だがその戦いに割り込んできたのは、ファルコだった。未だ心折れぬファルコは、義足をつけ、再び戦いへと戻ってきたのだ。しかし、もはや立つことすらままならない状態であるファルコは、ケンにある頼み事をしてきた。刹活孔。一瞬の生を呼び覚ますが、その後には確実な死が待ち受けるというその秘孔を突くようケンに依頼してきたのである。死すならば誇り高き死を選ぶ。それが、ファルコの選んだ元斗皇拳伝承者としての死に様であった。

 刹活孔により蘇ったファルコと修羅の死闘が幕をあげた。先程の戦いでもファルコを苦しめた棍術、忍棍妖破陣にて戦いを優位に進める修羅であったが、宙で交錯した一瞬の間に棍は細切れに。ファルコが久々に血を滾らせる実力者であることを認めた修羅は、秘法拳を使うことを決めた。怪しげな呪文を唱えだした修羅は、その場に蜘蛛のように屈んだかと思うと、独楽のように回りだし、砂煙と共に姿を消し去ってしまった。修羅忍道破魔砂蜘蛛。千手魔破と同じように、今度は自らが砂中に潜る事によって姿を隠し、不意打ちを仕掛けようと考えたのである。しかし身を潜めても、間合いに入らねば倒せないのが道理。その動きを知るためにファルコが使ったのは、元斗皇拳奥義滅凍黄凄陣という奥義であった。両手から放つ闘気が地に触れると、砂地はみるみるうちに凍結。周りの地面を凍らせることにより、敵の接近を感知できるよう罠をはったのである。しばしの静寂の後、ファルコの右前方の氷にヒビが走る。その次の瞬間、ファルコは攻めへと転じた。ひび割れた場所に手を突き入れたファルコは、今度は高熱を発する闘気を放出。熱砂へと変わったその砂地は、もはや身を隠せる場所ではなくなっていた。たまらず飛び出した修羅は、そのまま毒蜘蛛手刀 滅把妖牙を繰り出し、ファルコへと落下。迎え撃つ元斗猛天掌を修羅の手刀に貫かれてしまうファルコであったが、既にそこは必殺の間合いに入っていた。元斗皇拳秘奥義 黄光切斬。金色の光を放ちながら修羅を襲ったその手刀は、彼の胸から上下を真っ二つに切り裂いていた。これより先には俺よりはるかに強い、名を許された修羅たちが待っている。そう言い残し、その身を二つに分断する砂蜘蛛修羅。だが、勝ったファルコの体にも、もはや死期は目前にまで迫っていた・・・

 リンが囚われている牢の扉を開けたのは、ボロと呼ばれる、全身に布を纏った男達の一人であった。タオルとクシで身なりを整えさせられたリンは、ボロに連れられ、修羅の門へ。そこは、修羅を目指す男達の血の匂いが染み付いたトンネルであった。そしてその先に広がるは、巨大な闘技場。今まさにその舞台の上では、二人の修羅が命を懸けた戦いを繰り広げていた。リンは、その戦いの勝者に与えられる花嫁として、ここに呼ばれたのである。その戦いを仕切る男、カイゼル。彼はこの辺り一帯を治める群将の地位を与えられた修羅であった。ボロに紹介されたリンに対し、カイゼルはおもむろに手を伸ばし、その喉元を指先で掴んだ。カイゼルの手を伝い、リンの血が勝者に与えられる聖杯へと落ちる。しかし、リンの首に傷跡はなかった。カイゼルは傷つけずに相手の内臓を抜き取ることも出来るという拳をもつ男だったのである。

 122戦して105人を2分以内に倒した男。かたや155人を全て3分以内に倒した男。闘技場で闘う2人は、いずれも名を許されて恥じない強さを持つ修羅であった。だが、戦いは一方的なものとなった。宙からの攻撃を迎撃されたかに見えた修羅は、いつの間にか相手の影の中へと潜み、背後をとることに成功。そのまま相手の足首を掴んで放り投げ、二人は空中で激しく交錯。勝ったのは、122戦中105人を2分以内に倒した男のほうであった。彼はわざと強い相手を選び闘ってきた。2分以内に倒さなかったのは、倒す価値もないと判断したからだったのである。敗北した修羅は、自らに止めを刺すよう指示。勝利した修羅は、一撃で男の体を貫き、その手についた血を自らの胸に線引いた。愛羅承魂。それは、倒した相手の血を自らの血の中に取り込み、その男の血と傷で己が更に強くなったことを意味する修羅の国の儀式であった。この国では、死は相手の血の一部となって蘇ることを意味していた。

 勝利の聖杯を受けんと、カイゼルへ歩み寄る修羅。だがカイゼルは、その酒を地へと流し落とした。胸に七つの傷を持つ侵入者が現れた。その侵入者を倒せば望みを叶えよう。突如下された新たな指令であったが、激戦を勝ち抜いたその修羅にとってそれは造作もないことであった。

 沈み行く夕日を見ながら、ケンとファルコは別れの時を迎えようとしていた。自らの死によって伝承者を失った元斗皇拳の歴史が潰えること、そしてリンを救い出せなかった無念の気持ちが、ファルコを涙させる。だがそのとき、一羽の鳥が水平線の向こうから現れた。それは、元斗の伝書鳩であった。備え付けてあったその手紙を、ファルコの眼前へと差し出すケン。霞み行くその目が捉えた手紙の内容に、ファルコは驚愕した。なんとミュウの中に、己の子供が宿っているというのである。その子がきっと立派な伝承者となり、元斗皇拳の歴史を守っていくだろう。死にいくファルコの願いは、最後に叶えられたのだった。手紙の返事として、元斗の紋章が刻まれた胴着のボタンを鳩の筒へと入れたファルコは、鳩が再び水平線へと消えていくのをじっと見つめていた。そしてその姿が見えなくなった頃、ファルコはゆっくりと瞳を閉じ、拳士としての生涯を終えたのであった。その愛する者の死を感じたのか、遥か対岸で待つミュウの目にも、涙が伝っていた。

 ファルコのもうひとつの願いであるリンの救出。その願いは必ず自分が果たすことを約束し、ケンは強敵の最後に涙するのであった。
放映日:87年7月23日


[漫画版との違い]
・リハク、バット、ルイ、ミュウが、海岸でケン達を心配するシーン追加
・望遠鏡で見ていた赤鯱が、砂蜘蛛修羅見るシーン削除
・千手魔破は、原作ではケンに忍棍妖破陣を破られた後だが、アニメでは最初。
・忍棍妖破陣は、原作ではケンに破られるが、アニメでは使用せず。代わりにファルコに対して使用。
・それに伴い、棍を切断するのがケンシロウからファルコに変更。
・ファルコvs砂蜘蛛の初戦で、ファルコの足がとれてやられるまでのシーン追加
・黄光刹斬の名を言うのが、技使用後から、技使用中に変更。
・原作ではファルコの死を感じて目覚めるが、アニメでは接近するボロの気配を感じてに変更。
・アルフvs155戦の修羅の戦いにいくつか場面が追加
・伝書鳩の手紙を、原作では最初にファルコが読むが、アニメではケンが読んでから渡すに変更。
・原作のファルコは目を開けたまま死ぬが、アニメでは閉じる。
・対岸にいるミュウが涙を流すシーン追加。



・整備不良
あれだけのケンシロウとのバトルでも取れることの無かった義足。いったいどんな拍子で取れてしまったのかがアニメでは描かれているわけだが、別にどうってこともない、いたって普通の感じでポッキリいっちゃいました。これはもう整備を怠ったとしか思えない。傷が治ってないとかじゃなくて、ちゃんとケンシロウ戦以降に整備していかなかったのが問題だったんじゃないのか。あっ!もしかしてジャコウの一撃が重要な器官を破壊してたのかも。なんという最後っ屁。
・歌は世界を救う
北斗の拳を愛しているが故に、細かい部分はともかく、ストーリー内容にケチをつけることは殆ど無い私だが、ファルコの殺され方だけは北斗の拳全編を通じても一番納得のいかない部分です。ジャコウの傀儡と化して、臨まぬ殺戮、戦いを強いられたファルコ。その呪縛から解き放たれ、さあこれからはその元斗皇拳を人々のためにつかうぞというところでこの仕打ち。挽回の機会を与えてあげて欲しかったというのが私の思いです。しかし、アニメでの彼の死に様は、他の強敵達をも上回るほどの演出がされた。やはりキルザファイは熱すぎる。これだけで浮かばれないファルコが救われた気がします。
・夕日
修羅の国は、中国である。にもかかわらず、ファルコは水平線の夕日を見ながら死んでいる。中国には西側に海は無いので、これは変だ。地殻変動で中国が島国となったのだとしても、ケン達のいたほうの国は日本、もしくはそれに準ずる東のほうの国である可能性が高く、そっちから渡ってきたということは海は東側であるべきで、やはりおかしい。
 これに関してはカイゼルの項でも語っているのでそちらを見て欲しいのだが、18話のこの項でも語っている通り、北斗の拳において太陽の位置なんてテキトーなんですよ。


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