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サヴァ編
(218話〜227話)

 雪原地帯で雪崩に遭い、野獣達に襲われそうになったリュウは、サラなる女性に救われる。ケンシロウの強さを目の当たりにしたサラは、自らが王女を務める国・サヴァ国を救ってくれないかと頼み込んできた。辺境の野獣達に狙わるサヴァは、サラの父である国王アサムによって抑えられていた。しかし彼の身体は病に侵されており、もう永くはないのだという。

 峻険な山脈の中に隔離された「神が捨てた地」。かつて野獣に支配されていたその地を平定するため、国王となって立ち上がったアサム。国民達の英雄であるアサムは、自らの強さを誇示し続けることで、病に冒されている事を隠し続けていた。サラが連れてきたケンシロウの腕を確かめんとするアサムは、自らの会得する大乗南拳で渾身の一撃を振り下ろす。しかしケンはそれを受け止めただけでなく、一瞬にしてアサムという人間の本質を見抜いていた。この男こそが秘伝書に記された北斗の男に間違いない。そう確信したアサムは、自らの苦悩をケンシロウへと語りだした。

 アサムの後継者であり、彼の実子である三人の副王、カイ、ブコウ、サトラ。アサムは、その三人の息子の殺害をケンに依頼してきた。互角の力を持つ彼らは、互いに引くことなく、アサムの後継の座を狙っていた。かつて預言者から、三人が相和することがないと言われたアサムは、全てを三人平等に分けることで、諍いが起こらないよう育てた。だがその結果、三人は譲り合うという事を知らずに育ち、それが今の悲劇を生むこととなったのであった。アサムがいなくなれば国は必ず三つに割れる。それを危惧するが故に、アサムは今まで野獣達の討伐に討って出ることが出来なかったのであった。

 街に攻め込んできた蛮族集団シュタールを迎え撃つ三兄弟の軍勢。あっという間に野獣達を蹴散らした三人は、手柄を独占しようと、逃げた首領をそれぞれの副官に追わせる。だが深追いした副官達は、落とし穴へと誘いこまれ、火炎放射器で焼かれることとなった。救出に来たケンによって蛮族達は全滅したものの、互いに引くことを知らない三人の性格が生んだその無様な結果に、アサムは哀しみを募らせるのであった。

 王の間へ呼び出された三兄弟を出迎えたのは、玉座に座ったケンシロウであった。この国は俺が貰う。そう告げるケンシロウに対しサトラは、こいつを倒した者が後継者になるのはどうかと提案する。それに応じるブコウ、カイであったが、ケンシロウの強さは彼等の想像の遥か上にあった。圧倒的な力量差で、次々と返り討ちにあう三人。だが彼等を真に驚かせたのは、父アサムが余命幾許もないという事実であった。父の愛に溺れ、その愛を忘れて盲目となったクズ。三人をそう罵り、制裁を加えようとするケンシロウ。だがその時、サトラが、ブコウが、命を投げ出してケンシロウへと飛び掛った。そしてカイもまた、己の命を差し出す代わりに、二人の命を助けて欲しいと懇願してきたのである。ケンは、あえて圧倒的な力を見せ付けることで、離れていた三人の心を一つにしたのであった。

 遂に野獣の王・ヒューモを倒したアサムであったが、既にその命は尽きかけていた。父としてではなく、王として死ぬことを息子達に詫びながら、雪に身を横たえるアサム。だがその時、奇跡が起こった。兄弟の絆を取り戻した三人が、アサムのもとへと駆けつけたのである。北斗の男が起こした奇跡にアサムは感謝し、安堵し、そして涙するのだった。だが次の瞬間、カイの身体を激痛が貫いた。野獣の残党が、背後から槍を放ったのである。折角一つになった俺達が欠ける事を、父に悟られてはならない。そう言ってカイは、何事も無かったかのように、帰途につく父に最後まで手を振り続けたのであった。槍の模様から、黒幕が極北の聖国・ブランカである事を知ったカイは、サヴァの平和をケンに託し 息絶えたのであった。

 サヴァ国は、三人が一体となっての新国王として、新たな出発の日を迎えていた。既に事切れているカイを含めた三人が、壇上で国民の前に姿を現す。だが、そこにアサムの姿は無かった。アサムは、自らの愛した国民達の一人として、その光景を見守っていたのであった。もはやアサムは目も見えなくなっていた。だが、壇上の立派な子供達と、それに声援を送る国民達の笑顔こそが、アサムの望んだ全てであった。王として民のために尽くした男は今、父として、その生涯に幕を下ろしたのであった。

 ケン達を見送ったサトラとブコウのもとへ、部下達が車を運んできた。やはり国王は一人でなくてはならない。そう考えた二人は、共に譲り合い、自分が国を出ようと考えていたのである。だがその時、サトラはブコウに不意打ちをいれ、無理矢理旅立った。弟である自分が譲り、兄のブコウが国を継ぐ事が本筋―――。新王ブコウの栄誉を祈って発ったその弟に、ブコウは命を賭けて国を守ることを誓うのだった。



・サヴァ編
サヴァ編は北斗の拳全篇においても1、2を争う程のダダ泣きエピソードだと思う。だが、やはり拳王様御逝去の知名度が低いせいか、正しい評価を与えられていないイメージがある。まあちょっと話数的に少なく、ボリュームとしては物足りないので、そういうイメージになるのかもしれないが・・・
 だがまあこの判断は正しかったといえる。この章をこれ以上長くすると、リュウの存在が忘れられてしまいかねなかった。それくらいリュウの影が薄い話だった。満を持しての登場と、前回のコウケツ編での活躍ぶりから比べると、まるでピークの過ぎたピン芸人並のフェイドアウト具合である。しかし逆に考えれば、このブランカ編は、そこまでリュウの存在を希薄にしてでも描きたかったエピソードであるという意味であり、完成度の高さの証であるとも言える。

 私がブランカ編において最も素晴らしく表現できていたのは、三兄弟の馬鹿さ具合ではないかと思う。正直言って彼等は、相当マトモな人間のはずだ。そこそこ強いし、民の為に戦っているし、愛国心も強い。「兄弟間の遠慮の欠如」という点以外は、ほぼ完璧な人間であると言ってもいい。それなのに彼等がここまで馬鹿っぽく見えるのは、その唯一の欠点がいかに大切なことかというのを表現できたことの顕れであると思う。
 ケンと対峙したとき、サトラがボロボロにやられたにも関わらず、ブコウは自信満々にケンに挑みかかった。おそらくブコウが兄弟間の遠慮を持っていたなら、サトラがやられた時点でケンの強さを判断できていたはずだ。だが彼は退くことを知らなかったため、「自分はサトラなんぞより遥かに強い」などという妄想を持ってしまい、サトラと同じように無様にやられてしまった。まったくもって馬鹿丸出しである。父の病に気付かなかったのも、後継者争いに目を奪われていたからだろう。ケンが言うとおり、まさに「盲目になったクズども」である。あの副官達を燃やされた事件も含め、「退かない」という欠点だけでこれだけ人間を馬鹿っぽく描ける原武両先生の演出は素晴らしいという他ない。
・雪原地帯
ユリア伝では雪が降ってきたりしていたが、北斗の拳の世界においての雪原地帯は他のどのシリーズを見ても此処だけである。木々も沢山茂っているようだ。雪がつもっていればある程度核の被害からも逃れられるのだろうか。それとも辺境すぎて、ここまでは核の炎も届いていなかったのだろうか。
・サヴァ国
アサムは二十数年前にこの神の捨てた地を拾い、サヴァの国王となった。二十数年前というと、まだ核すら落ちていない頃である。しかし上でも語ったとおり、木々が生き残っていることを考えても、この辺りは核による被害が殆ど無い可能性が高い。野獣に狙われるバイオレンスな世界ではあるが、それは二十数年前からそうなので、核によって秩序が乱れたというわけでもない。おまけにあの峻険な山脈によって、外界との接触もほぼ無いに等しいと考えられる。サヴァは、核も乱世も拳王も全く関係なく、二十数年前から時が止まったままの、奇跡の国なのだ。
・赤帝 青帝 黄帝
三人ともすんなり各々の色を受けて入れているようだが、これに関しては特にケンカは起こらなかったのだろうか。やっぱり黄色がカレー的な発想があるのは日本人だからなのだろうか。
・何も殺さなくても・・・
預言者をぶった切るアサムを見て誰もがそう思っただろう。しかしこの決断は致し方ない。もし彼を生かして、この予言が兵や民達の耳に入れば、二人を殺せという風潮が広がってしまう可能性が高い。ただでさえサヴァ国は、ブランカに負けず劣らず信仰心の強そうな国である。占いの結果だと言われたら、疑うことなくそれを信じてしまうだろう。その声に負けて息子達を殺すわけにもいかないし、自らの愛する民達が声を荒げて殺せコールをする姿も、見たくもないだろう。ああいう予言が出てしまった以上、預言者は可哀想だが死ぬしかなかったのだ。
 結局彼の予言は見事に的中したわけだが、アサムはそういう予言が出たから三人を平等に育て始めたらしい。つまり、アサムがその予言を聞いていなければ、無理に平等に育てる事もなく、三人の仲は乱れなかったかもしれないわけだ。うーむ、凄い。深い。こんな誰も気付かないような所に、凄いネタを仕込んでいるなあ。
・落とし穴作戦
シュタールは結局、副官三人(+α)を落とし穴に落として焼き殺すという作戦をとったわけだが、あれだけ多くの兵を失ってまでこの作戦を慣行した事を考えると、本当は三兄弟の命を狙っていたんじゃないかと思う。というか、三兄弟も本当はその罠の匂いを感じ取っていたんじゃなかろうか。だからこそ用心をかねて、副官を送ったんじゃないかと思われる。罠だと知りながらそれにハマる辺りが、三兄弟の馬鹿さをさらに際立てている。
・新国王はコドウに
サラ女王でよくね?
・首領ヒューモ
いくらなんでもボス弱すぎるだろう・・・。最初にサラを襲ってきたデカイ奴のほうが強いんじゃないか?これならアサムが留守番していて、三兄弟に討伐に行かせても十分殲滅できたんじゃなかろうか。あ、でもやっぱ無理だな。シュタールの首領にすら裏かかれてたくらいだし。きっと深追いして雪崩で全滅だな。
・遺体のカイを座らせて・・・
いや、バレるだろ・・・。
それにこの後、カイの不在をブコウはどうやって誤魔化したのか、非常に気になる。もし正直に公表したのだとすると、サヴァには激震が走っただろう。三副王が一体となった磐石さを偉く信頼していた民は、サトラが欠けた時点で相当なショックを受けたはず。そこへカイが死んだとなれば、新国王への信頼は一気に崩壊し、不安のドン底に突き落とされたとしてもおかしくはない。アサムもいないし・・・。まあそのアサムが野獣を一掃してくれたおかげで実際には安全な日々が続いていることには間違いないだろうが、アサムが死ぬ前に見た民達の笑顔に、今は少なからず影が差しているという可能性は否定できない。ブコウには本当にがんばってもらいたいものである。

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