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ヤサカ編

 拳志郎との激闘を終え、眠り続ける劉宗武は、ある悪夢にうなされていた。それは、目の前で父が殺された幼き日の出来事・・・。それは、今でも忘れる事のできない、宗武の忌まわしき過去の記憶であった。父を殺した男の名は杜天風。今や秘密結社「大湖弊」の大ボスとして、闇の世界の権力者にまで登りつめていた男であった。そして今、その男の飽くなき野心は、青幇が支配する上海にまで伸びようとしていた。



 優先すべきは、拳志郎との決着よりも、杜天風への復讐―――。宗武がそう決意を固めたとき、彼の元にドイツ軍大佐ヘッケラーが訪ねてきた。特に用事も無いまま帰っていったヘッケラーの行動に、宗武が疑問を抱いた次の瞬間、彼の屋敷に向けて一斉に銃弾が放射された。宗武に命を狙われている事を知った杜天風は、ドイツ軍と手を結び、宗武の暗殺を命じたのである。だがその程度の策で殺されるような宗武ではなかった。不用意に近付いてきたヘッケラー達を一瞬で葬り去った宗武は、杜天風への憎しみを更に燃え上がらせるのであった。

 贈りつけられたヘッケラーの死体を見て、そそくさと逃亡劇を開始する杜天風。だがそれは、宗武が杜の居場所を突き止めるための罠であった。車で逃げ惑う杜を競馬場へと追い込み、その悪夢の根源を討ち取らんとする宗武。だが拳志郎が駆けつけた時、傷を負っていたのは宗武のほうであった。杜天風は、対北斗神拳の切り札として、ある用心棒を雇っていたのである。その男が使った拳法の名は、西斗月拳。拳志郎は、かつてその拳法に纏わる不思議な体験をしていた。



 数年前、西域の砂漠を旅していた拳志郎は、ある仏塔に足を踏み入れた。それは、かつて白馬寺に経典を運んだと言われる月氏族の墓であった。だが拳志郎は、その塔の中で更なる驚きを目にした。深い地の底に安置されていた多くの石像が、北斗神拳の型を作っていたのである。その謎は、洞窟の奥で拳志郎を待っていた一匹の狼からの"言葉"によって、明らかにされたのだった。

 1800年前、最強の暗殺拳・北斗神拳は、シュケンの手によって創始された。だがその歴史の中で、闇に葬られた拳があった。月氏族に伝わる秘拳、西斗月拳―――。それは、北斗神拳の秘孔術の祖となった拳法であった。
 月氏族はシュケンを迎え入れ、彼に秘孔術の全てを授けた。だがある新月の夜、シュケンは大恩あるその者達を一人残らず惨殺した。自らの役目は、平和を齎す英雄を守ること……。故にシュケンは、西斗月拳の秘術を封印し、悪人の手に渡らぬようにせよとの命を与えられていたのである。使命を果たしたシュケンは、その業を背負い、天帝の守護拳である北斗神拳を創始した。だが生贄にされた月氏族の怨念が消える事は無かった。拳志郎の前に現れた狼は、その西斗の怨念の化身なのであった。
 先日、劉宗武が襲われた現場に残されていた匂い―――。それが、あの時の狼と同じ匂いであった事に、拳志郎は気がついていた。現代に蘇った西斗月拳の伝承者、ヤサカ。彼の願いは、北斗をこの世から抹殺する事であった。

  数日後、街中では、偽者の閻王相手に暴れるヤサカの姿があった。偶然居合わせた飛燕は、関与せずに立ち去ろうとするが、すでにその気配はヤサカに感づかれていた。不意打ちの秘孔針で動きを封じられた飛燕は、とある廃墟の中へと連れ込まれ、張り付けにされてしまう。北斗の傍流である極十字聖拳もまた、ヤサカの抹殺対象の一つだったのであった。来たる処刑の日に向け、執拗に繰り返されるヤサカの拷問を、飛燕はただその身に受け続けることしか出来なかった。

 来たる新月の夜……。処刑を執り行うはずだったその日に、突如ヤサカは飛燕の束縛を解いた。好機とばかりに極十字聖拳で攻め立てる飛燕であったが、ヤサカが拳を躱すたび、その傷は浅くなっていった。ヤサカの目的……それは極十字聖拳を見切ることで、同系である北斗神拳の間合いをも見切る事だったのである。その目的が果たされた時、ヤサカは、勝負を決める秘奥義を繰り出した。複数の秘孔を突いて必殺の技と成すという不敗の拳、相雷拳。その最後の1片となる一撃が突き入れられた瞬間、飛燕は全身から血を噴出し、その場に崩れ落ちたのだった。

 死力尽き果てた飛燕に、ヤサカが止めの一撃を突き入れようとしたその時―――、それを妨げるかのように砲撃が放たれた。飛燕の危機を知った拳志郎が、日本軍の戦車に乗って駆けつけたのである。思わぬ本命の登場に血を滾らせるヤサカであったが、国民党軍の攻撃が始まったその場では、もはやこれ以上勝負を続ける事はできなかった。

 動けぬ飛燕の身体を抱え、戦場を後にする拳志郎。だが飛燕は、エリカの下に帰ることを拒んだ。もうエリカに死に別れの悲しみを与えたくない……。己の命が永くない事を悟った飛燕は、一人で死ぬ事を選んだのである。エリカという守るべき存在を得たことで、今初めて飛燕は死に恐怖していた。拳志郎と玉玲にエリカのことを託し、一人海へと漕ぎ出した飛燕は、やがて静かにその瞳を閉じたのであった。



 揚子江に浮かぶ巨大な武装輸送船。新たな大湖弊のアジトであるその船に、ヤサカと杜天風は姿を潜めていた。しかし玉玲は、すでにそれに対抗するための策を用意していた。武器商人である劉宗武を通じ、潜水艦に話をつけ、魚雷で杜天風の船を沈める算段をつけていたのである。青幇への攻撃を激化させる杜天風は、今や玉玲にとって最も目障りな存在となっていたのであった。

 その頃、杜天風は、ある珍妙な装備をヤサカに見せびらかしていた。秘孔指突防御装置と名づけられたそれは、全身のスーツに高圧電流を流し、秘孔突きを防ぐというものであった。しかしその自慢の装備も、魚雷の前には何一つ役に立たなかった。一瞬にして船を沈められ、海へと投げだされる杜天風。だが彼の真の不幸はその後に待っていた。潜水艦と共に杜天風が浮上したのは、あの宿敵・劉宗武の目の前だったのである。作戦通り、宗武を感電させることには成功した杜であったが、無論その程度で宗武が倒せるはずも無かった。海へと蹴落とされた杜天風は、自らの電気で感電しながら、深い海の底へと沈んでいったのであった。



・杜天風、かつて劉宗武の父・劉宗建を殺害する。
宗武って拳志郎が生まれる前から北斗劉家拳を学んでたから、普通に考えると40歳手前くらいになる。でもって杜天風は、享年58歳となってるので、大体二人の年齢差は20前後ってことになる。それをこの題にあるシーンに当てはめてみると、宗武がおよそ5歳前後だから、杜天風はこの時25歳前後ということになるんですよ。
・・・・どう見てもジジイですけど・・・
・杜天風、麻雀でイチャモンをつけてきた向世昌大佐の首を刎ねる。
でもこれ厳密に言うなら、杜の方が正しいんよね。牌から指が離れてないとまだ打牌したとは見なされないから、向世昌さんのロンが早すぎるんだよ。まあ中国麻雀はどうなのかしらんけど。
・「ロ…ロロ……ロ…………ロバだな〜」
個人的に蒼天の拳ナンバーワンの名台詞。
・ノミの孔、杜天風の出現を受け、御大である玉玲の身を案じる。
いやいやいや、羅虎城死んで間もないのにこんなキャラ出しちゃだめだって!完全に没個性になっちゃうから!ていうかこんなビックリ人間を当たり前のように出さないで!羅のときはあんなにイジってたじゃない!
・玉玲、長崎港から船に乗って上海へと戻る
あれ?拳志郎は横浜港から上海に来たよね。なんでわざわざ長崎に?戦争で便がなくなったんかな?
・宗武、杜天風が乗る車を銃撃。しかしトドメは己の拳で果たすと言って銃を捨てる。
でも最後は海に落として感電死&溺死だったよね・・・
・宗武、馬小屋の中に潜んでいたヤサカの不意打ちを受け、負傷
後の宗武の台詞によると、この時ヤサカは馬糞まみれの藁の中に潜んで匂いを隠していたらしい。これも「勝つためには何でもする」と自負する戦場の拳の西斗月拳ならではの作戦だとは思うんですが、それにしたって並大抵の覚悟じゃないねえ。
・拳志郎、西斗の怨念の化身(狼)から、北斗神拳が誕生にまつわる悲話を聞く。北斗神拳は北斗宗家の拳と西斗月拳の秘孔術の融合によって生まれた拳だった。
実際んとこ、北斗神拳創始に必要とされた割合でいうと、北斗宗家の拳ってあんまり高くないんじゃないんでしょうかね。個人的には 超人的な身体能力=北斗宗家の拳、秘孔術=西斗月拳、だと思うんですが、西斗月拳だって十分超人的ですもんねえ。飛燕の攻撃かわすし、百裂拳喰らっても平気だし、雷暴神脚っぽいの使えるし・・・。いやまてよ、西斗月拳も北斗を逆輸入して強化された可能性があるな。伝承者を含む12人が簡単にシュケンに殺されたことを考えても、昔は弱かったのかもしれない。
・シュケン、白馬寺の高僧達の命により、西斗月拳の伝承者とその高弟12人を抹殺する。
あんの高僧ジジイども、オウカの身投げを見て少しは柔和になったかなと思ったらこれだもんな。鬼子ですよ鬼子。そこまでしても結局すぐに分派とかしちゃってるしね。手を尽くしたけど結局漏れちゃったってことなのかしら。
・ヤサカはかつて列車強盗で国民党の軍資金を奪い、百姓に配って回った。しかし人質をとられて捕まり、死刑を待つ身となっていた。
義賊しちゃってますよこの人。イイ人じゃないですか。しかも人質にとられると手出しできないくらい大事な人がいるんですよ。イイ人じゃないですか。・・・・・っていうか、北斗抹殺の使命をほっぽらかして何してんねん。拳志郎は日本にいたから出来なかったとしても、他にも北斗な人はいっぱいいたでしょうに。もしかしたら彼が北斗抹殺に目覚めたのって、つい最近なのかもしれませんね。牢獄の中で急に天啓が降りてきたのかもしれない。
・ヤサカ、偽閻王に箸突き刺し、5本中に2本ある破裂しない箸を選ばせる。溜めて溜めて溜めて「残念!」
レギュラー放送ももう終わろうかという晩年も晩年のミリオネアネタをここでもって来る原御大のセンスぱねぇ。
・飛燕、ヤサカの操孔針を受けて動きを封じられる
毎日千手羅行の修行してたアンタがなんでこんなもん喰らうんだよー。子供庇うためって言っても、二指真空把もあるんだから、掴んだり叩き落したりくらいできるんじゃないの?
・ヤサカ「北京漂局の飛燕を捕らえるには――」
飛燕の元勤め先は「北平漂局」なのに、この時のヤサカの台詞では「北京漂局」になっている。実はこれ、誤植ではなく、1937年に「北平」が「北京」に呼び方が変わってるんですな。拳志郎vs飛燕のあった日が1937/8/14なので、まさに時代の変化に沿っているわけです。なんという細かい気配り・・・
・ヤサカ、新月の夜に飛燕を処刑することを決める。月氏の神が血に飢えるのが新月だから
シュケンが西斗月拳の高弟達を殺したのが新月の夜なんですよね。だから新月に西斗の怨念が最も高まるってことなんでしょうかね。でもまてよ、ヤサカにはシュケンの血も入ってるんだよな。もしかしてシュケンが血化粧浴びたのが新月だから、ヤサカも新月に興奮する体質になっちゃってるってことなのかもしれないぞ。皮肉な話だ。
・ヤサカ、あえて飛燕の束縛を解き、極十字聖拳で自らに挑ませる。同系である北斗神拳との間合いを見切るため。
うーん、極十字聖拳って、北斗神拳から分派した北斗劉家拳をもとにして作られた拳法なんだよね。ちょっと遠すぎないか?どっちかってえと南斗に近いくらいの勢いだし、秘孔攻めをしてる様子も無いし、そもそも極十字聖拳も北斗神拳を超えるために練り上げられた拳だし…。むしろアンタの西斗月拳の方が遥かに北斗神拳に近いと思うのだがどうか。
・西斗月拳の秘孔術は複数の秘孔を突いて必殺の技と成す
これってケンシロウvsハン戦で両者がやってたやつじゃないの?
・拳志郎、北斗百裂拳でヤサカを吹っ飛ばす。しかしヤサカにダメージ無し。
これどっちかってぇと、千手壊拳だよね?ケンシロウにとっての千手壊拳は拳志郎にとっての百裂拳にすぎないってことなのか? 「今のはメラゾーマではない・・・メラだ」って事なのか?ていうか、ヤサカさん結構身体に喰らってたよね?なんで大丈夫なの?
・飛燕、小船で海を彷徨いながら静かに息を引取る
玉玲記憶復活とか、美福との親子再会とかも泣けるシーンですが、悲しみで泣けるシーンではこれがダントツすぎる。エリカとの関係もそうだけど、飛燕自身もいいキャラクターだっただけに、本気で残念だった。ヤサカって義賊の真似したり、女は殺さなかったりと、実はけっこうイイヤツだったりするんですが、この飛燕殺しだけでえらく評判悪くなっちゃってるよなあ。
・玉玲、潜水艦を調達するため、上海一の武器商人である劉宗武に取引を持ちかける。
宗武ってドイツ国防軍とヘッケラーの殺害容疑でドイツ軍警察に追われてなかったっけ。てっきりドイツ軍との縁は切れたものだと思ってたんだが・・・証拠不十分で不起訴になったのかしら。まあ秘孔使ったらどうにでもなるだろうけど。
・杜天風、秘孔指突防御装置を開発。1000Vの電流を流す事が出来る。
1000ボルトってあんた…電気ウナギですら800Vくらいは出すよ。君の瞳は10000ボルトだし、ピカ●ュウだって10万V出しますよ。まあでも実際のところ、ボルトは電流じゃなくて電圧なんで、いくら高くても関係ないらしいんですけどね。むしろアンペア(電流)のほうが大事で、0.1アンペアが身体を流れるだけで人は死んじゃうそうです。ま、宗武さんなら1.21ジゴワットでも死なないでしょうけど。マーティー!
・杜天風、宗武の攻撃を高圧電流で撃退する。
そんなビショビショ状態で電流流したら自分にも・・・・まあいいか


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