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西斗の怨念の狼



登場:蒼天の拳(第166〜170、236〜238話)
   蒼天の拳REGENESIS
肩書:西斗の怨念
CV:高乃麗(REGENESIS・ぱちんこ)

 西斗月拳の怨念の化身。かつてシュケンに殺された高弟達の怨念が寄り集まって生まれた存在。容姿は狼だが、人間の言葉を話す。

 月氏族の墓に訪れた拳志郎の前に、敵意を持って出現。北斗神拳の元となった西斗月拳の存在、そしてその拳の高弟達が、シュケンの手によって惨殺された悲劇を語り聞かせた。その後、拳志郎に襲い掛かるも、身体に拳を突き立てられ敗北。拳志郎の涙に、二千年にわたって受け継がれたシュケンの哀しみを見るも、自らの恨みもまた消えることは無いとして、己の意思を継ぐ復讐者の出現を予言した。死んだ後、ヤーマの亡骸へと姿を変えた。

 だが後に、その狼を生み出したのは「シュケンに会いたいというヤーマの強い気持ち」であり、やがてその激しい愛が怨念へと変わったのだということが明らかに。西斗の神が北斗を憎んでいるとされたのは、真実を知らぬ月氏族が「西斗月拳の使途が全てシュケンに殺された」という部分のみを伝えたからであり、ヤーマはシュケンを憎んでなどいなかった事が明らかとなった。

 その容姿は、かつて崖下へと身を投げたヤーマを救った狼が元になっている。ヤーマの死後には、彼女が残した子(ヤサカの祖先)に自らの乳を与えて育てた。




 北斗の拳でも亡霊的なものはたまに登場していたが、蒼天の拳では北斗の導士やこの狼などという人外の存在が結構ハッキリクッキリ登場するのが特徴の一つでもある。流石はキョンシーの国。

 この亡霊の正体は、シュケンに会いたいというヤーマの強い想いだという。彼女の激しい愛が、やがて怨念の化身へと姿を変えたのだとか。美福庵主はその一例として、文麗が宗武を殺そうとしたり、自分が鉄心を憎んだ過去などを挙げたが、彼らの憎しみの奥には愛があった。いわゆるツンデレである。しかし拳志郎と対峙した際の狼の口調からは、ただただ月氏族を殺したシュケンへの激しい憎悪しか感じられなかった。泥沼離婚調停中の冷め切った夫婦間が如く、そこにはかつての愛など何処にも無かった。この時、ヤーマの愛はどこにいってしまっていたのか。

 私が思うに、この時の亡霊狼を形成していたのは、ヤーマの愛だけでなく、西斗月拳の使い手13人が抱くシュケンへの憎しみも含まれていたのではないかと思う。彼らの遺骸も同じ墓の中に祀られているのだから、互いの念が混ざり合っても不思議はない。ましてや1対13という人数差。いくらヤーマの愛が強くとも、13人分の憎しみが混ざれば白も黒になろうというもの。そして美福庵主の言うとおり、ヤーマ自身にもシュケンを憎む気持ちはあったのだろう。故に本来は愛の化身となるはずだった狼が、あのような狂犬病が如き暴走狼へと変貌してしまったのだと考えられる。

 そもそもヤーマがこの狼を通じて拳志郎に伝えたかったのは、泰聖院に眠る勾玉「ヤー(神)」を自らの墓に運んでもらい、その中に眠るシュケンの魂と再会することが自らの望みであるということであった。だが結局は前述の通りの有様で、もはやあの狼にヤーマの意思は介在していなかったため、その一番大事な用件すら伝えることができなかったのだろう。

 そしてこの意識の混在こそが、怨念が「狼」となった原因なのだと思う。本来ヤーマが自分の想いを伝えるだけなら、狼の姿など借りず、自分の姿で亡霊となって現われればよかったはず。それができなかったのは、墓所の中を彷徨うヤーマの霊が他者の霊と絡にあってしまったことで、生前の己の身体へと戻ることが出来なくなってしまったのだ。そこで行き場をなくした混在意識は、そこにいる誰でもない、ヤーマを慕って墓所の中で最期を迎えた狼の身体を寄り代としたのであろう。