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[第110話]
時は流れ
また時代が動いた‥‥!


 かつて男達は戦い、この世に一時の平安を残し、天に地に散っていった。やがてその男達の戦いの歴史は砂に埋もれ、伝説が残った。

 とある町―――。高貴な婦人を乗せた車を引くのは、鞭で打たれる奴隷達。そしてその道路脇には、車のはねた泥を被りながら、頭を地に着けてただ車が通り過ぎるのを待つ村人達の姿があった。涙の中に泥すらまじる赤子と、婦人の抱える毛布で眠る赤子・・・。平安は時とともにに貧富の差を生み、世は再び混迷の時代へと向かっていた。

 郡都(エリア)Fで捕らえられた囚人6名は、死刑を免れたかわりに、奴隷として中央帝都へと送られる最中であった。夜の荒野を突き進む護送車は、やがて眩い光を放つ物体を目前に捕らえる。星かと思われたそれは、この時代にあるはずのない電気の光で輝く中央帝都の明かりであった。その光源は、帝都の地下深くにあった。連れてこられた部屋で囚人達が見た者、それは、巨大な発電機、そして、その発電機を死ぬまで回し続ける奴隷達の姿であった。中央帝都のまばゆい光は、人の命を源として作られていたのである。地獄のようなその光景に恐れ戦く囚人達であったが、当然彼等に拒否権などなかった。帝都兵の鞭をうけ、彼等もまた新たな光の動力源としての生活を送ることとなるのであった。

 総督・ジャコウ。天帝より全権を預かる、実質上の中央帝都の主である彼の下へ、各郡都からの定時報告が入れられた。反逆者を捕らえたり鎮圧したりと問題のない報告が続く中、ただひとつ、郡都RZの護送車がレジスタンス部隊に襲われたという報がジャコウの眉を動かした。部隊の名は北斗の軍。リーダーは若い男と女だという。しかし今やほぼすべての郡都を手中にしたジャコウにとっては、滅びた北斗の拳の事など小さな問題に過ぎなかった。とその時、部屋の明かりが消えた。ただヒューズが飛んだけだったのだが、突如ジャコウはその狡猾な表情を大きく歪め、怯え始めた。何かに取り憑かれたかのように闇に震え、光を求めて暴れるジャコウ。しかし兵が機械を直して部屋に明かりを戻すと、ジャコウは再び高笑いをあげ、自らの野望を果たさんとする独裁者へと戻った。

「光だ!我が帝都にもっと光を集めろ!!もっと光を!世界中の光は我が帝都にあり!!その光で遍く世を照らすのだ!我は天帝により全権を預かる総督ジャコウ!我の命令は天帝の命令なり!!」

 全権を治める天帝。それは北斗をも南斗をも従える王者の星。今、その天帝が、地上の覇権を手中に収めつつあった。

 噂が真実かどうかを確かめるため、ジョウ、アイ、ジイの3人はある場所へとやってきた。吹きすさぶ崖の上で男達が目にしたもの、それは、ポツンとたたずむ七つの星が刻まれた墓であった。それは紛れもなく、かつて世界に平安をもたらした救世主・ケンシロウの墓であった。信じたくなかった最悪の結果にうなだれる3人。とその時、彼等の耳に鈴の音が聞こえてきた。周りに人の姿はない。しかし鈴の音は彼等のすぐ側から聞こえてくる。その音が地の中から聞こえてきていることにジイが気付いた瞬間、突如地の中から赤装束を纏った男が飛び出してきた。男は振り下ろした鎌で瞬く間もなくジイを斬殺。さらに背後に現れた黒装束の男によって、アイは真っ二つにされてしまった。彼等の名はゾルバとザルジ。北斗神拳を、ケンシロウを頼ってこの血に訪れた者達を抹殺して希望の芽を摘んでいくのが彼等の役目であった。崖淵へと追いつめられたジョウは、ザルジの振り上げた鎌に気圧され、足を踏み外して崖下へ。大怪我を負い、崖の下でうめくジョウに、ゾルバとザルジはケンシロウ死亡の報を広めるよう命ずるのだった。

 ケンシロウは死んだ。その事実は、街全体から希望を奪っていった。しかしジョウは諦めてはいなかった。救世主がいなくても自分達の力で帝都を倒そう。街の片隅に集めた民衆にそう呼びかけ、人々を奮い立たせようとするジョウ。その強い決意に民達の心は一つになりかけたが、突如人々は血相を変えてその場を離れていった。ジョウの背後に、帝都の司刑隊が迫っていたのだ。密談禁止という己達で作った法律に反したという理由で、締め上げられるジョウ。それでも尚帝都への暴言を止めようとはしないジョウに怒り、隊長はジョウの絞殺。その遺体を壁へと放り投げ、去っていった。血の跡を残しながらゆっくりとジョウの遺体が壁をずり落ちる。事切れたその手が破いた壁の手配書には、若い男女の顔が描かれてかれていた。

 新たに囚人達を捕まえ、護送車を引いて荒野を疾走する司刑隊。その模様を崖の上から見つめていたのは、若い男女をリーダーとする軍団であった。男の名はバット。女の名はリン。あの幼かった子供達は、いまや北斗の名を背負って世のために戦う立派な戦士へと成長していた。バットのかけ声と共に崖を駆け下りた北斗の軍は、あっと言う間に司刑隊を取り囲み、囚人達を解放せんと攻撃を開始。人数で優る北斗の軍の一方的な攻撃に、帝都兵をはどんどんなぎ倒されていった。残るは護送車を引くバイクのみ。しかし、最早勝算はないと踏んだ隊長は、最悪の行動を選択した。囚人達の入る檻をバイクから切り離したかと思うと、彼等にガソリンをまきかけ、火を放ったのである。驚愕するバット達を嘲笑うかのように、隊長を乗せたバイクは逃走。燃え盛る炎の中に飛び込もうとするリンを制し、バットは己の無力さを只々呪うのであった。

 アジトへと帰ってきたバット達は、かつての南斗五車星、そして今は北斗の軍の軍師となった海のリハクに結果を報告。あまりにも悲惨な結末に、一同はただ頭を垂れてうなだれる事しか出来なかった。その時、柱の影から1人の幼い少女が現れた。彼女の名はマム。彼女の父は、あの火に巻かれた護送車の中にいた。幼いが故に事情を理解できず、父の行方をリンへと問うマム。リンは涙を流し、マムを抱きしめ、ただ謝ることしかできなかった。ケンさえいれば・・・その言葉を飲み込んで戦い続ける2人の姿は、未だケンシロウの元へ届いてはいなかった。

 ある辺境の村に現れたのは、薄汚い身なりをした旅人であった。数日間何も口にしていないらしいその男は、かっぱらいとぶつかっただけで力無く転倒。群がった盗人達もあきれるほどに、男は素寒貧であった。しかし、そんな旅人を助けんと一人の少年が駆け寄ってきた。少年の名はハル。親切にも男に水を分けようとするハルであったが、水を求める男の手は力無くその場に崩れ落ちた。ハルの呼びかけに答えることもできず、男はただその場に突っ伏していた・・・
放映日:87年3月12日


[漫画版との違い]
・泥水をかけられる夫婦の座り位置が、原作と逆
・発電用の囚人が中央帝都に連れてこられるのは原作ではソリア死後だが、アニメでは物語冒頭
・ジャコウが各郡都からの報告を受けた後、電気がおちてうろたえるというシーン追加
・ジイ、アイ、ジョウの三人が北斗の墓を見に訪れ、ゾルバとザルジに襲われるシーン追加。
・司刑隊隊長がジョウを絞め殺した際、原作では横にいたのは小太りの兵だが、アニメでは普通の体格の男
・マントの男(ケン)が、とある村に現れて気絶するというシーン追加


・北斗2開始
満を持しての北斗の拳2開始!
でも!
ケンの出番は1分46秒!!
調べてないけど、おそらく総集編を除けば最短記録かと思われます。
・北斗の墓
これは一体何のために作ったのだろう。いや、存在している理由はなんとなく理解できる。バスクが偽リンを処刑したのと同じで、ケンが死んだという絶望を与えるためだろう。だったら、ゾルバとザルジは訪れた人を殺しちゃいけんだろう。たまたまジョウは生きて帰らせてもらったが、二人は切る気まんまんだったし、崖から落ちて死んでいてもおかしくはなかった。絶望を与えるのが目的なら、すんなり帰らせてやるべきだ。おそらく二人は墓を掘り起こされて、死体が埋まっていないのをバレないようにするために居るのだろうが、そんなん他の人の骨でも埋めといたらええやん・・・。ずっとここに住んでいるのだとしたら、本当にお疲れ様です。
・死にかけ
その昔、友人と北斗の拳を語っていたら「でもアニメのケンシロウって常に死に掛けてない?」と言われた。なんのこっちゃかわからなかったのだが、おそらく彼は北斗の拳第一話と、この北斗2第一話のことを指して言っていたのだろうと後に氷解した。
確かに第一話のケンは原作でもフラフラだったが、アニメでは更に気がふれたかのように地面をおもむろに掘り出したり、シンが襲い掛かってくる幻影まで見たりしていた。北斗2では原作ではかっこいい黒王との登場であるのに、アニメでは倒れたところを浮浪者に群がられる、悲惨な登場だ。しかも2の場合は死にかけである必要もないのに死にかけなのがなんとも・・・。
そいやこの人、後にリュウと別れたあともすぐ死に掛けてたな。一人にさせちゃいけない人なのかも知れない。


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