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[第35話]
邪悪なる者よ! 
トキ・お前の心は腐っている!!


 トキの身に何が起こったのか。その真相を確かめんとするケンは、無駄口をたたくハブを地面に叩きつけてお仕置きするなどしながら、一路奇跡の村へと向かっていた。

 ぺルの鳴き声で目を覚ましたリンは、ユウの体の異常に気が付いた。医療の心得がある者が診察しても、その治療法は一切解らない。とその時、キャラバンの中の一人が、奇跡の村の噂を話し始めた。触れるだけでどんな病気をも治してしまうという者がいる奇跡の街が、たまたまこの近くにあるというのだ。他に頼る物もないユウの両親には、迷っている暇など無かった。キャラバンと別れたユウ親子とリンは、旅の末、トキの城へとたどりついたのであった。

 息子を助けてくれと必死で門を叩くユウの父。ゆっくりと開いた扉の向こうで待っていたのは、凶悪そうな仮面をかぶった男であった。無愛想に男に招き入れられた一行は、ぺルを外に待機させ、トキの居城の中へ。トキの前へと通された夫婦は早速ユウの治療を依頼するが、リンには目の前で悪意を含んだ微笑みを浮かべるその男が、とても善人には見えなかった。助けてくれたらなんでもする。父のその言葉に偽りがないことを確認したトキは、怪しく笑い、ユウの治療を承諾したのだった。

 バイクに乗ったトキの部下2人は、ケンシロウと、捕らえられたハブの姿を発見した。2人はハブを助けるためにケンシロウへ向けて突撃するが、アッサリとカウンターでパンチを喰らい死亡。トキの城は、もうすぐそこにまで迫っていた。

 ユウの脇腹へ深々と指を突き入れるトキ。苦痛に悶える表情を見せたユウは、ぐったりとその体を横たえて気絶した。3時間もすれば目を覚ます。ユウを心配する両親にそう告げたトキは、続いて、早速先ほどの約束の件を持ち出してきた。"なんでもする"。そのユウの父が提示してきた条件にトキが選んだもの、それは、ユウの父親に木人形となり死んで貰うことであった。女房子供を残しては死ねない。そう言って暴れる父親であったが、トキには彼の意思などどうでもよかった。むしろ生きたいというその執念が、新秘孔を生むための奇跡を起こすかもしれないと考えていたのだ。父親の体を部下に押さえつけさせたトキは、問答無用に実験を開始。呼吸に必要な筋肉の動きを封じるという秘孔へと向け、徐々にその指が進入させてゆくトキ。だが、その指があと数ミリで秘孔に達しようかというとき、トキはある殺気に気が付いた。とっさに部下の刀を奪ったトキは、その殺気に向けて刀を投擲。悲鳴と共に人体図の向こうから現れたのは、ハブを盾にして刀を防いだケンシロウの姿であった。

 リンからユウの体を異常を告げられたケンは、早速横たわるユウの体に秘孔を刺突した。ユウは病気を治されるどころか、放っておけば確実に死んでしまう状態へと変えられていたのだ。あまりにも残忍に変貌を遂げたトキ。その理由を問うケンに、トキは言った。変わったのは俺でなく時代。時代は医学より暴力を必要としているのだと。暴力を賞賛し、高笑いを上げるその姿に、昔のトキの面影はどこにもなかった。

 過去の想い出を振り払うかのように、トキに攻撃を開始するケンシロウ。しかしその拳は、肩当を破壊した一撃を除き、全て受けきられてしまった。その技のキレ、強さは、間違いなく兄・トキのものであった。優しかった男を、ここまで変えてしまった理由。その切欠となったある事件を、トキは語りだした。

 トキが辿り付いたのは、病気が蔓延し、医薬品など何もない村であった。その燦々たる光景を目にしたトキは確信した。今こそ己の北斗神拳が活人の拳となる時であると。そして村は、トキの秘術によって生き返った。人々は、その村を奇跡の村と呼んだ。

 だがトキが村を開けた数日の間に、事件は起こった。村が盗賊達に襲われたのだ。朽ち果てた村人達の死体の山・・・それは、トキがいままで築き上げてきたものが全て無に帰したことを意味していた。そしてその時、トキは生まれて初めて怒りに我を忘た。修羅と化したトキの拳は、一瞬にして盗賊達を惨殺。後に残ったのは、例えようのない哀しみだけであった。そしてトキは、今まで自分が思い描いてきていた夢が所詮戯言にすぎなかったことを知ったのだった。


 トキは、自らに斬りかかってきたユウの父に、度重なる人体実験で見つけた新秘孔・激心孔を突いた。
初めて見る秘孔の前にケンもどうすることもできず、父は心臓を破裂させて死亡。貴様は断じてトキではない!腐りきった目の前の男に、遂にケンの怒りが爆発した。

 ケンの激しい蹴りの連打を傷一つでかわしたトキは、その威力を利用し、わざと己の服を切らせた。顕わになったのその背を見たケンは驚愕した。そこにあったのは、紛れもなく男がトキだと証明する古傷だったからだ。その昔、滝に打たれる修行をしていたケンを流木が襲った。その時、身を呈してケンを守ったトキは、背に大きな傷を受けてしまった。今目の前に晒されたその傷は、男が紛れもなくケンの恩人・トキであること証明していたのだ。もはや疑いようの無くなった現実に、絶望を覚えるケン。そして同時に、ジャギに続く二人目の兄までも倒さねばならない己の宿命を呪うのだった

放映日:85年7月11日


[漫画版との違い]
・リンを探すバット・レイ・マミヤが、奇跡の村の話を得て砂煙の中を進むシーン追加
・原作では半年前に病にかかったユウだが、アニメでは数日前
・ユウ親子がアミバ医院を訪れる際にリンが同行。ユウの母と同じく捕まる。
・ユウの父が己を掴むアミバ部下を振り払うシーンは無し。よって動きを封じられる秘孔は突かれない
・ユウ、ケンシロウの秘孔によって生き延びる
・ユウの父が激振孔で死ぬとき、ケンシロウは何もせずに死を見送った(原作では無駄にあがく)
・服を切らせるときにアミバが受けた傷が左頬から右頬に変更



・病原体
リンをキャラバンに加えて数日後、謎の病気にかかってしまったユウ。しかも病名はさっぱり解らないと言う。この時、絶対ユウの両親&移民達はこう思ったはずだ。
「この小娘か犬のどちらかがウィルスもってきたんじゃねーのか?」
・こ・・・この技のキレは・・・
トキの技のキレに驚いてこう言ったケンさん。
普通に考えればこの後のケンの台詞は
「やはり本物のトキか・・・!」である。
しかしそれはあまりにもトキの実力に不相応なので
「かつてのトキの鋭さがない!!」と言いたかったのでは、と推測する人もいる。
確かにトキとアミバの拳を互角にするってぇのは無茶な事なのだが、残念ながら(?)アニメではちゃんと前者の言葉を続けて言っております。諦めましょう。あとはこの時のケンの目が腐っていたことを祈るのみです。


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