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[第133話]
ロック死の伝達!
ケンシロウ友の命を受けとめよ!!


 網を手に、川で魚捕りに興じる子供達。この国では珍しいその微笑ましき光景に、ケンの顔にも思わず笑みがこぼれる。だが子供達がケンの顔を見た瞬間、その顔は凍りついた。一目散に逃げ出だした子供達は、走りながらこう叫んだ。羅将ヒョウ様だ、と。子供達がケンを見紛えた、その羅将ヒョウなる男とは・・・

 ハンの棺を前に、ケンシロウへの復讐を誓うヒョウ。副将ナガトが伝えた情報は、そのヒョウの怒りを更に増幅させた。郡将ギャモンを倒したケンを、人々は救世主と呼び始めたというのである。もはやヒョウには、城で待ち続けるなどという事は出来なかった。修羅の国最大の機動力と武装を備えた、ヒョウの親衛機甲団。自らその最強軍団を従え、ヒョウはケン抹殺に向けて出陣したのであった。

 ロック達はジュウケイのもとを訪ねていた。彼等はヒョウの親衛機甲団の襲撃を計画していた。だがもし敗れた時、残された村人達を守ってもらうよう、ジュウケイに頼みに来たのである。しかし、ジュウケイは知っていた。彼等がどんなに奮闘しようが、ケンはヒョウに勝てないことを。何故ならヒョウは、ケンと血を分けた実の兄だったのである。

 20数年前、ジュウケイはラオウ、トキ、ケンシロウの三人を海の向こうへ送り出した。時代の為、兄弟であるヒョウとケンを引き離したのである。だが三人を乗せた船が出航したその時、ヒョウはその姿をくらましていた。彼は波の中にいた。ラオウ達の乗った船を追い、海へと泳ぎ出たのだ。しかしそれは、三人を追いかけてきたわけではなかった。赤子であるケンシロウを、お前たちの手で守ってくれ。そう伝えるためだけに、彼はその幼い身体で荒海へと飛び込んだのである。弟を想うそのヒョウの優しき心は、あまりにも深かった。だが、彼は優しすぎた。拳を学ぶにおいてその優しさは不要。そう考えたジュウケイは、その手でヒョウの記憶を奪ってしまったのである。今のヒョウの中に、ケンシロウという名の弟は、最早存在していなかった。

 もしケンとヒョウが戦えば、兄弟相打つ戦いとなる。そうなった場合、ケンシロウに実の兄を倒す事は出来ない。それが、ケンがヒョウに勝てないという最大の理由であった。取り返しのつかぬ過去の過ちに、ジュウケイはただ悔いるのであった。

 ケンのいる西の荒野へと向けて突き進むヒョウの親衛機甲団。だが小さな村に差し掛かった時、彼等の前にロックが立ち塞がった。ケンシロウがヒョウを倒せないなら、自分達が倒す。彼等はその標的を、ヒョウ一人に絞り込んだのである。そして決戦の地に選んだこの村には、親衛機甲団を待ち受ける様々な罠が用意されていた。まず突進してきた戦車を落とし穴にはめたロック達は、鐘楼からの狙射で隊長ルイスウを射殺。小屋の中からのガトリングボウガン、井戸の中からの不意打ち、煙幕を使用しての車奪取に、高速の鞭捌き、そしてダイナマイトによる戦車爆破。鍛え上げられた七人の戦闘術が、次々と修羅を葬っていく。しかし、最大の狙いであるヒョウの命は、余りにも遠かった。

 ヒョウの乗る戦車に向け、自らが奪った戦車で突っ込むサンチョ。だがその特攻は、割り込んできた別の戦車によって防がれてしまった。ヒョウを狙撃したハンスは、矢を闘気で弾かれ、鐘楼ごと砲弾で吹き飛ばされてしまう。ガトリングボウガンのロペスは不死身の肉体を持つクジンに、鞭のフランクは放たれたナイフに貫かれ死亡。ウェインは修羅達を巻きこんで自爆するも、その圧倒的な人数差の前には、焼け石に水であった。

 残されたロックとホセも、既にその周囲を修羅に取り囲まれていた。勝敗は既に決していた。だがヒョウは、ロックの一騎打ちの申し出を受け入れた。彼等の無謀とも言える心意気に応えたのである。千載一遇のチャンスとばかりに襲い掛かるロックとホセ。しかし、ヒョウの力は圧倒的だった。放たれた闘気で瀕死へと追い込まれる二人。しかしその時、ホセはロックに告げた。お前はケンシロウさんのもとへ行け。俺達の戦いを無駄にしないためにも、ヒョウとケンを戦わせてはならぬのだと。死んだと思われていたサンチョが、最期の意地で自爆したのを合図に、二人の男は散った。ホセはヒョウへ。ロックは荒野へ。義に殉じるホセの行動に、ヒョウは奥義 陽真極破で応えた。鋭く研ぎ澄まされた闘気に貫かれ、ホセは自らの役目を終えたのであった。

 ヒョウは、ロックに追っ手を差し向けなかった。彼の命はもう長くは無かった。せめて最期は仲間の死を背負って死なせてやろうという、ヒョウの心意気であった。

 死んでいった六人のためにも、ケンに会うまでは死ねない。愛馬の背に揺られながら、ロックは荒野を彷徨っていた。そして奇跡は起こった。その命果てる前に、ロックはケンに巡り合う事に成功したのである。残された僅かな命で、ケンに真実を伝えようとするロック。しかし、無情にもその時は訪れた。ケンとヒョウ。二人が兄弟であると言う事実を伝えきれぬまま、ロックはその命果てたのであった。ロック達が死を賭けてまで己に戦わせまいとする男、ヒョウ。未だケンはその男の素性を知る事はなかった・・・

 吹きすさぶ砂嵐の荒野で見回りを行う、修羅のヤセとデブ。ケンシロウという何者かもわからぬ男のために狩りだされた事に、文句を垂れる2人であったが、次の瞬間、彼等を突然の闇が襲った。幻魔影霊。それは魔神の影とともに現れる禍々しき影。二人の背後にあったのは、魔闘気と呼ばれる邪気を纏った、第一の羅将カイオウの姿であった。
放映日:87年10月1日


[漫画版との違い]
・子供達がケンをヒョウと見紛えるシーン、ジュウケイがケンとヒョウの秘密と過去を明かすシーン、見回り修羅がカイオウと出会うシーン以外は全てアニメオリジナル。
・ジュウケイがケンとヒョウの秘密を語るのは原作ではレイアとタオにだけだが、アニメではロック達も居合わせる。
・見回り修羅がリン達の姿を発見するシーンは削除
・カイオウが見回り修羅達を飛び越えていくシーン削除


・北斗2No1アニオリ回
もともとアニメオリジナルが可也少ない北斗2ですが、その中で今回は最もアツい回だと言っていいでしょう。ロック達7人でスピンオフ作品を作りたくなるくらいのかっこよさ。というか、この回自体そのようなもんですね。ケンの出番全然ないし。
 
圧倒的に少ない人数で、大多数の敵に挑んでいく。これは戦いだけでなく、野球漫画などでもお馴染みのシチュエーションだ。最期に勝とうが負けようが、どうあがいても視聴者を燃えさせる、今も昔も定番の展開である。北斗では大概勝ってしまうので、このロック達の負けっぷりは逆に新鮮に感じてしまうのだろう。最も近いのは、手負いのヒョウがカイオウの陸戦隊に挑むシーンか。あの時、このロック達の戦いっぷりを思い出すようなシーンでもあれば神演出だったのになあ、とか思います。
・一騎打ち
ロック「ヒョウ!俺と一騎打ちをしろ!貴様は自分では戦わぬ卑怯者か!」
ヒョウ「その意気や大いによし。受けてやろう」


ロック
「ヒョウ!お前は俺が倒す!!」



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