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ユダ編
(77話〜82話)

 南斗紅鶴拳のユダ。彼もまたこの世の覇を狙う男の一人であった。己が誰よりも強く、そして美しいと信じるその男は、自分に相応しいと見込んだ美女達を収集していた。そして、マミヤもかつてその一人として選ばれた女であった。ユダに目の前で両親を殺され、連れ浚われたマミヤは、その肩に一生消えることの無い傷痕を刻まれたのであった。そしてそれは、マミヤに女として生きる事を捨てさせていたのであった。

 南斗聖拳108派の頂点である南斗六聖拳。シンやレイはその一角を担う拳士であり、ユダもまたその内の一人であった。裏切りにより南斗六聖拳を崩壊へと導き、そしてマミヤに哀しみを背負わせた男、ユダ。奴こそが己の最後の相手に相応しいと考えたレイは、ケンシロウと共に、ユダの居城へと乗り込む。だがそこに待っていたのは、ユダの副官・ダガールであった。妖星、またの名を「裏切りの星」を宿星に持つユダは、レイに残された最後の1日を徒労に終わらせるため、事前に城を出ていたのである。粋がるダガールを返り討ちにしたケンシロウは、秘孔による拷問でユダの行き先を聞き出すが、もはやレイにはその町まで赴くだけの時間は残されていなかった。

 ひとまずマミヤの村へと戻ったケンシロウとレイ。もはやこのまま死を待つだけかと嘆くレイであったが、一つだけ、命を延ばす方法があった。だがその秘孔は、今のレイの苦痛を数倍にさせる諸刃の剣であった。マミヤがメディスンシティーで手に入れてきた薬を飲み、「死」という方法で苦痛から逃れる方法もあった。だが、残りの命をマミヤのために生きるというレイの決意に揺らぎはなかった。秘孔 心霊台。トキが指先を突き入れた瞬間、想像を絶する痛みがレイの全身を駆け巡る。苦悶の叫び声が暫く続いた後、扉の中から現れたのは、あまりの痛みによって白髪と化したレイの姿であった。

 その時、マミヤがユダに捕えられたとの報せが届いた。マミヤが死兆星を見ていることを知ったユダは、残る命をマミヤの為に費やそうとしているレイを嘲笑うため、自ら乗り込んできたのである。今のレイを支えているのはマミヤへの一念。そう考え、死兆星の事をレイに告げるユダであったが、レイの心は揺らがなかった。哀しき運命を背負いし女のため、せめて自らの命を捧げる。それが、レイが望んだ生き様であった。

 ユダがレイを憎む理由。それは遠き昔、修練場での出来事が起因していた。跳躍して巨大な鷲を切り裂いたレイの動きに、ユダは一瞬魂を奪われた。それは、自分自身が一番美しいと信じていたユダのプライドをズタズタに引き裂いたのであった。いずれレイに醜く哀れな死をくれてやる。かつて抱いたその復讐心を胸に、レイとの戦いに臨むユダ。だが死を目前に控えた筈のレイの拳は、以前よりも鋭さを増し、ユダを圧倒した。レイを突き動かすもの、それは紛れもなくマミヤへの愛に他ならなかった。

 しかし、知略を得意とするユダは、既に手を打っていた。破壊されたダムから流れ込んだ大量の水が、足下を流砂地へと変える。華麗なる足の動きを極意とする南斗水鳥拳にとって、それは致命的な状況であった。遠方から切り裂くユダの技の前に、成す術無く切り刻まれるレイ。だがユダが止めの奥義を放とうとしたその時、レイは水面に手をついて宙へと舞い上がった。その美しい舞に、ユダが一瞬心を奪われた次の瞬間、振り下ろされたレイの手刀が、ユダの両肩に深々と突き刺さっていた。南斗水鳥拳の美しさに魅了され、レイを追い続けたユダは、最後までその幻影を突き放すことが出来なかったのであった。己がただ一人認めた男の胸の中で、ユダは静かに力尽きるのであった。

 レイの顔面から突如鮮血が迸る。それは、彼の身体にタイムリミットが迫っている事を意味していた。一瞬でもいい、女として生きろ。そうマミヤに言い残し、レイは一人、小屋の中で最期の時を迎えるのだった。そしてその死は、一つの奇跡を起こした。マミヤの目には、もう死兆星は映ってはいなかった。



・ナメすぎ南斗
なんとかユダの城へとたどり着き「1日あればケリはつく」と言い放ったレイだが、彼のその自信はどこからやって来たのだろう。数分おきにぐわああああああーっと悶絶するような状態で、仮にも南斗六聖拳の一角を担うユダ相手に本気で勝てると思っていたのだろうか。他に選択肢が無かったとはいえ、あまりにユダを舐めすぎではないかと思う。
舐めてるといえばユダも同じ。レイに勝てる気でいたのはともかく、ダガールとのやり取りを見ただけで「ケンシロウの技は見切った!」と豪語するのは流石に自信過剰すぎだろう。
裏拳とビンタしかしてないケンさんの行動を見て何を見切ったと言うのか。
あれだけの強さを誇りながら、体の謎を見切るまでは闘わないという慎重さを持つラオウ様を、二人とも少しは見習って欲しいものである。
・南斗紅鶴拳は背中から裂ける
この設定、なんだか直ぐに忘れ去られてしまったような感がありますが、ユダがレイを伝衝裂波で切り刻んだときの傷は、よく見ると体の後ろ側が切れているんですよね。
・心霊台
残り3日だったレイの命をあと1日延ばした秘孔、心霊台。その真髄は、体だけを一気に経年させる事にあるのではないかと思うう。あのレイを襲った激痛は、あと1日かけてじっくり訪れる予定だった痛みを全て前倒しにし、数時間に凝縮したのものだったのだろう。そこで全ての痛みを出し切っていたからこそ、レイは痛みに襲われることなくユダと戦うことが出来たのである。そしてそれがレイの寿命を延ばすことにも繋がったと考えられる。四六時中痛みに襲われていては身体は衰弱するばかり。それが尽きるのがキッカリ3日後に設定されていたのだろう。しかしこうして激痛と安定のメリハリをつけたことで、安定期はレイの身体が衰弱することがなく、回復する時間を持つことが出来た。故に本来の死亡予定時間にズレが起こったのだ。
激痛中に全て剥がれた手の爪がすぐに生えてきたこと、またレイの髪がすべて白髪になったのも、もしかしたら体が一気に成長(老化)した結果の現象なのかもしれない。
・ツイてない村
今回はユダの軍勢が押しかけてきたマミヤの村ですが、この村ってほんといっつも敵に攻められてますよね。出来立ての頃はマミヤの両親が野盗達と戦いを繰り広げてたし、マミヤの20歳の誕生日にはユダが訪れて両親抹殺。その後は長期に渡って牙一族とやりあって、落ち着いたと思ったら拳王侵攻隊に制圧され、そして今回のユダ軍襲来。数年後には天帝軍によって長老が殺されてしまいます。アニメや外伝も含めると更にあと何回か攻められてますし。まあそれだけ資源が魅力的だったり、立地が良かったりするんでしょうかね。
・ユダ、レイの飛燕流舞に心奪われヌンチャクを落とす
南斗の修練場に必修科目とかがあったとは思えないので、ユダがヌンチャクを持っていたのは自分でチョイスしたからだと考えられる。つまり彼にとってヌンチャクは自らに釣りあう美しき武器だったという事だ。で、シュウの場合は星球フレイルだったわけだ。みんないいセンスしてる!
・この毒で村もイチコロというわけよ
ダム1基分の水に、あんな小瓶分を混ぜるだけでイチコロということは、相当強烈な毒物なのだろう。おそらくは1gで5500万人を殺せるというボツリヌス菌ではないかと思われる。・・・・しかしそれなら水にガッツリ漬かって闘ってるユダもイチコロなのでは?まあそれが狙いなのかも知れませんけどね。コマクだって妖星の手下なんだから、裏切りはお手の物でしょうし。
・マミヤの死兆星が消失した理由
レイがユダを倒した事で、マミヤの頭上に輝いていた死兆星は消失した。これは何故か。それは、マミヤに訪れるはずだった死の運命がユダに移ったからなのである。
レイは新血愁を突かれた3日後に死ぬはずだった。だがトキの突いた心霊台によって生き長らえ、本来その時間軸には生きていないはずの人間となった。そんなイレギュラーな存在であるレイの手により、ユダは殺されたわけだ。だが歴史には、本来の状態に戻そうとする力がある。通常なら死ぬはずのない人間が死んだことで、生き長らえる人間ができた。それがマミヤだったのである。

【TVアニメ版での主な変更点】
ユダの怒りを買った侍女の追放理由が、額の傷から、勝手に髪形を変えたからに変更
マミヤがメディスンシティーから普通の薬も取ってきていていたがレイに効果はなかった
ユダの城を訪れた時点でのレイの命は、原作では残り一日だが、アニメでは二日。
ブルータウンの町がブルダンの町に変更
原作ではブルータウンに行かないが、アニメではブルダンの町へ向かう。道中、女たちを助けに向かう途中のノバ達と合流し共に赴くが、そこに居たのはユダの影武者、というエピソード追加。
ユダにマミヤを連れ去るよう命じられたコマクの部隊がマミヤの村を襲撃するというエピソード追加。その最中にレイが心霊台から復活しマミヤを助ける。
原作ではレイが復活したタイミング(夜)にユダが来るが、アニメでは翌朝に来る。
コマクが鉱支描牙拳を使ってケンシロウを戦うシーン追加。毒は使わない。
原作ではレイは最期に小屋に入ってすぐ死ぬが、アニメでは回想したりして暫く生きている。

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