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聖帝編
(83話〜97話)

-再会編-


 南斗聖拳最強の男、聖帝サウザー。覇道を成すために避けられぬその相手を偵察に訪れたラオウは、完成を間近に控えた「聖帝十字陵」の威容を目にする。それは、聖帝の権威を誇示せんがための巨大な墓標・・・。そしてその建設作業を強いられていたのは、聖帝軍によって連れ浚われた子供達であった。反抗する大人よりも、従順な子供達を使う・・・それが聖帝なる男のやり方であった。

 聖帝軍に子供を献上しようとする盗賊から、とある一家を守ったケンシロウ。だがその時、聖帝軍と対立する別の組織が現れる。彼らを率いるは、南斗白鷺拳のシュウ。盲目の闘将と呼ばれるその男の目は、深く刻まれた傷痕と共に、両目の光を失っていた。有無を言わさず闘いを挑んできたシュウは、華麗なる脚技でケンシロウを攻め立てる。だがケンシロウの強さはその一つ先を行っていた。北斗神拳奥義 水影心。一度闘った相手の拳を修得できるというその奥義で、遠方から切り刻む南斗聖拳を繰り出すケン。だがケンは、シュウに止めを刺さなかった。シュウの拳に殺気が無い事を、ケンは見抜いていたのだった。
 その闘いを止めたのは、リンとバットであった。ケンを探しに荒野へ出た二人は、シュウによって危機を救われていたのである。シュウの目的は、命を賭けてケンシロウの力を量ることであった。聖帝サウザーを倒しうる唯一の男であるケンを、シュウは待ち続けていたのだった。

 流民の集団が襲われているとの報せを受けたシュウは、ケンと共に救出へと向かう。子供の命を蔑ろにする聖帝軍に向け、シュウは言った。「子供達の光を奪い去ることは許さん!」。その言葉を、ケンは遠い昔に耳にしていた。幼き頃、ケンが挑んだ「南斗十人組手」なる試練。それは、南斗の拳士10人を相手に戦い、全員に勝ち抜かねば生還できないという過酷なものであった。そこでケンシロウの才を目にしたシュウは、十人目の相手として名乗りを上げ、ケンを圧倒する。しかしシュウはケンを殺させようとはせず、その代償として自らの両目を潰した。シュウの宿星である仁星は、ケンシロウという光に、誰よりも強く輝く可能性を感じていたのだった。そして今、ケンシロウとの再会を果たしたシュウは、かつて己が感じた予感が正しかったことを確信していたのだった。


・南斗の良心
この聖帝編までに南斗六聖拳は三人登場しましたが、なにかと問題アリな方々ばかりでした。シンは初登場が全裸であり、愛する女の人形をこしらえるという性癖の持ち主。レイも過剰なるシスコンに加え、事ある毎にマミヤを裸に剥くという性癖の持ち主。ユダは言わずもがなの性癖の持ち主。南斗の頂点に立つ者達はこんな奴等ばかりなのか!?と疑念が沸き始めた頃、登場したのがシュウサウザーでした。シュウは一部の隙も無い善人でケンシロウの恩人。そしてサウザーはそのシュウを無残に処刑した上、憎らしいほどの強さを誇る敵として。善と悪のシンボルとして研磨されたキャラクター性を誇るこの二人は、今まで少し難アリだった南斗六聖拳に、確かな「格」というものを与えた存在だと思うのです。
まあそれもイチゴ味で大分印象変わってしまいましたけどね・・・。
・伝衝裂波
ケンシロウが水影心にて会得したユダの拳、伝衝裂波。TVアニメ版で名付けられた奥義名ではあるが、もはや公式として完全に定着しつつあるほどの知名度を誇っている。ケンシロウ自身も結構気に入っているぽいし、リアルの世界でもプール等で結構真似しやすいというのが愛されている要因ではないだろうか。ちなみにケンはユダと「闘って」いないので、水影心のラーニング要素を満たしていないように思われるが、トキが己とラオウとの戦いをケンシロウに見せることで柔の拳を教えようとしていたように、重要なのは「拳を見る」事なので問題は無い。描写を見るとユダが伝衝裂波を使用している時はケンはダムの修理に行っていたので見れてもいないように思えるが、漫画というのは必ずしもシーンの順番通りに時系列が並べられているわけではないので数発分くらい見てから修理にいったものと考えられる。
・シュウが10人目に名乗り出た理由
順調に南斗十人組手を勝ち進んでいたケンシロウの前に、十人目として名乗りをあげたのはシュウであった。結果、ケンシロウはシュウに敗北し、殺されそうになるが、シュウはその命を救う代償として自らの両目を潰した・・・・。しかしあのままシュウが名乗りでなかればケンシロウは普通に十人目を倒し、シュウも両目を潰すようなことにならなかったのではないか。一体彼は何故わざわざ名乗り出てしまったのか。
ラオウ伝 殉愛の章(小説版)内の記述によると、あの時
サウザーは十人目に名乗りあげ、ケンと一撃で殺すつもりだった。故にシュウが先んじて名乗り出た、という解釈がなされている。なるほど、それなら辻褄があう。
よく見ると、ずっと椅子にふんぞり返っていたサウザーが、シュウが立ち上がったときには身体が前のめりになっている。これはつまり、あとコンマ数秒後にサウザーも立ちあがるつもりだった事の証だろう。つまりあの時、あのタイミングでシュウが立たねば、ケンシロウの命は無かったのだ。殉愛の章の映画版では、トキやラオウもケンシロウの処刑を止めるつもりだったと言っているが、もし本当にサウザーがケンを一撃で殺していれば、救助もクソもなくケンは死んでいた。シュウのやり方でしかケンシロウを救う方法は無かったのである。
・なぜシュウのことを忘れていたのか
そんな大恩人であるシュウの事を、ケンシロウはすっかり忘れてしまっていた。顔や声や名前、目の傷を見ても思い出せなかったというのはあまりに恩知らずではないか。もともと人形とユリアを見紛えたり、アミバをトキと思い込んだりと、目利きに不安があるケンシロウではあるが、それらはケンの目を騙すための細工が行われており、仕方が無い部分もある。しかし何の変装もしていないシュウが解らなかったというのは言い訳のしようも無い。ケンシロウは何故シュウの事を思い出せなかったのか。
考えられるのは、
ケンシロウがラオウ様に秘孔を突かれ、十人組手の記憶を抹消されていたという可能性だ。あの十人組手、北斗神拳側の見届け人はラオウ様であった。だが本来はリュウケンが付き添っていなければならない筈だ。負ければ死という尋常ではないルールの他流試合に、現伝承者である師匠が付き添っていないのは常識的にありえない。この事から、ケンシロウの南斗十人組手は、ラオウ様の独断で行われた可能性が高いと考えられるのだ。実際、ジャギ外伝でもそのように描かれている。
リュウケンには内密でとの条件に、ケンシロウも当初は納得していた。しかし試合は思わぬ結果となった。このままではケンシロウはリュウケンに事のあらましを話し、シュウのもとに赴いて償いをしようとするだろう。そう考えたラオウ様は、ケンシロウの秘孔を突き、その日の記憶を丸ごと封じた。そして数年後、シュウと再会を果たしたケンシロウは、彼の言動を聞くうちに封印が解かれ、ようやくあの日の記憶を取り戻すことが出来た、といった具合ではなかろうか。

【TVアニメ版での主な変更点】
タカの家族たちと出会う前にケンシロウが聖帝軍と一戦交えるエピソード追加
ゲリラの一団がサウザーを襲撃するが返り討ちにあうというエピソード追加
聖帝正規軍に襲われたバットとリンがシュウに救われるシーンあり
リンとバットが囮となって聖帝軍に掴まりアジトを特定するというエピソード追加



-敗北編-


 ケン達が案内されたシュウのアジトは、戦前の下水道の中に作られた質素なものであった。南斗六聖拳最強の男であるサウザーは、他の南斗の拳士では勝つことは出来ない。故にシュウはゲリラとなって抵抗することしかできずにいたのだった。

 その時、レジスタンスの部隊が、聖帝の小隊から食料を奪って帰還した。だがその食べ物には全て毒が入れられており、一人の少年が命を落としてしまう。あまりにも非道なるその聖帝のやり方に、ケンシロウは激しい怒りを覚えるのだった。

 行進する聖帝サウザーの軍勢の前に、ケンシロウが立ちはだかる。嗾けられた南斗双斬拳の二人を難なく撃破し、その成長を見せ付けるケンシロウであったが、サウザーはその不遜な態度を一向に崩すことは無かった。帝王であるサウザーの拳に防御は無い。あるのは制圧前進のみ。無為の構えから一瞬にして間合いを詰める突進で、ケンシロウを攻め立てるサウザー。だが一度戦った相手の拳を見切ることのできるケンシロウに、同じ攻撃は二度通用しなかった。必殺の極星十字拳を躱し、サウザーの身体の秘孔を連続で刺突するケンシロウ。貴様の命はあと3秒。そう宣告するケンであったが、3秒後に血を吹いたのはケンシロウの方であった。経絡秘孔の効かない「帝王の体」。その謎こそが、ラオウがサウザーとの戦いを避けていた理由なのであった。

 深手を負い、牢獄に囚われたケンシロウの前に、一人の少年が現れる。彼の名はシバ。シュウの一人息子であった。サウザーを倒せるのはケンシロウを置いて他に無い。その父の言葉を信じ、動けぬケンシロウを抱えて逃亡を図るシバ。だがこのままで逃げきぬと踏んだシバは、追っ手達を巻き込んで自爆するという道を選んだ。幼きシバにもまた父シュウと同じ、仁星の血が流れていたのであった。

 ケンシロウが目覚めた時、そこはシュウのアジトの中であった。ケンを救ったのはラオウであった。サウザーの体の謎を解明するため・・・ラオウはまだケンシロウを死なせるわけにはいかなかったのだった。


・サウザー遺伝子
もう結構有名なトリビアではありますが、サウザー遺伝子(学名 Myo31DF - souther)と言うものがあります。これは、発見された細胞が、サウザーが持つ「心臓の位置も逆、秘孔の位置も表裏逆」という特異体質を作り出すのに関連していることから名付けられたものです。しかし私も詳しい所までは把握していないので、改めて調べてみました。ただ私自身の化学知識がほぼゼロに等しいので、色々表現などが間違っている部分は多々あるかと思います。ご注意ください。
サウザー遺伝子が発表されたのは2006年。発見者は、大阪大学大学院理学研究科・理学部教授(2016年現在)の松野健治氏。(発表時は東京理科大学助教授)。サウザーのように内臓逆位の体を持つ突然変異体のショウジョウバエ(螺旋状である腸の渦の回転が通常と逆向きの個体)からその遺伝子が特定されたとの事。
ここでよく勘違いされるのだが、このハエのような内臓逆位の個体がサウザー遺伝子を持っているのではなく、
体内の臓器等が左右どちらに作られるかを決めるのがサウザー遺伝子であるということ。つまり各臓器をどこに生成するのかを指示する現場監督のようなものであり、これがポンコツな「サウザー変異体」になってしまうと指示が無茶苦茶になり、左右の位置が逆になる場合があるのだ。ただ無茶苦茶でも右か左の二択なので当たる事もあり、すべてが逆になるというわけではないので、本家サウザーのように綺麗に左右逆転するケースのほうが稀なのだとか。
まとめると、
サウザーは「サウザー遺伝子の持ち主」ではなく、「サウザー遺伝子がポンコツな人」なのだが、綺麗に全部反転するという奇跡を起こしているので「帝王の体」との評価は間違っていない、ということ。

・サウザーの強さは攻撃面にあり
南斗聖拳最強の実力者であるサウザー。彼の強さの象徴は、帝王の体と、攻撃の当たらぬ天翔十字鳳だ。だがそういった防御面は取り沙汰されても、攻撃面に関してはあまり触れられることは無い。しかし、実はその攻撃面こそがサウザーの真の強みなのだ。
サウザーとの初戦、ケンシロウは極星十字拳を2度くらって敗北した。あのケンが、しかもリョウの死を目の当たりにしてかなり怒りのボルテージが上がった状態のケンを、
たったの2発で瀕死の状態に陥らせたのである。まさに脅威の殺傷力だ。次戦でも、サウザーに受けた一発目の攻撃でケンは階段を転げ落ち、血だるまになった。それを見たトキとラオウも、ケンがまた敗北したと思ったくらいなのだから、相当なダメージだったのだろう。
秘孔を除いた一撃必殺力で言うなら、サウザーのそれは全キャラクターの中でもトップと言っても過言ではないのだ。
そしてもうひとつの攻撃面の強みが、サウザー自身が言う「制圧前進」のスタイルだ。これはサウザーが最初に見せた高速踏み込みの事だと思われがちだが、それだけではない。注目すべきは、サウザーが人中極を突かれた場面。あの時、秘孔をついたケンは勝利を確信するが、逆にケンの方がその身を切り裂かれていた。つまりサウザーは、
ケンシロウにあたたたたーを喰らいながら十字拳を繰り出していたということだ。これぞまさに制圧前進の心。多少殴られようとも前進して間合へと踏み込み、超強力な奥義で反撃する、帝王らしからぬ「肉を切らせて骨を断つ」戦法こそがサウザーを帝王たらしめているのである。
・ツンデレ
サウザーの体の謎を解いてもらうという目的のため、ケンシロウを救ったラオウ様。その理由はわからんでもないのだが、本当にそれだけなら部下に任せればよかったのではないか。(実際TVアニメ版ではそうしている)。ラオウ様が自ら赴き、あの砂嵐の中でケンシロウを拾い、丁寧に手当てをし、そしてシュウのアジトの側まで運ばれた、その理由は何なのか。おそらくそこに打算はなかったのだろう。兄として。それ以外に理由はなかったのだと思う。
ただ、やはりそこは拳王としての体裁もあったので、タイミングは計ったのだと思われる。ケンを助けた時、あの強風の中でもケンのマントはまだ飛ばされておらず、体に砂も積っていなかった。ここから察するに、
ラオウ様は早い段階でケンシロウを発見していたが、助ける所を見られるのは恥ずかしいので、気を失ったのを確認した後に救出したのであろう。拳王様のツンデレ気質がありありと伝わってくるシーンである。最後に黒王の蹄の跡だけは残すことでさりげなくアピールするあたりが尚更いじらしい。

【TVアニメ版での主な変更点】
スワニーの村を狙う聖帝部隊とケンシロウが闘うエピソード追加
アニメではシュウのアジトでケン達とシバが顔を合わせる。
毒殺されたリョウが、アニメでは秘孔が間に合い息を吹き返す。
行き倒れたケンシロウを救う役目が拳王から拳王軍兵士2名に変更。



-復活編-


 聖帝十字陵の完成を間近に控え、聖帝による本格的なレジスタンス狩りが開始された。大軍勢がアジトに向かっている事を知ったシュウは、眠るケンシロウを地下水路から送り出し、命を賭してサウザーへと立ち向かう。だが、百人の人質をとられたシュウには、戦うことすら許されなかった。両足の腱を切られて敗北したシュウは、無念の涙を流し、魂の叫びをこだまさせる。その強敵の呼ぶ声は、ケンシロウを深き眠りから呼び覚ました。

 百人の人質と引き換えにサウザーがシュウに命じたのは、聖帝十字陵の頂まで聖碑を運ばせるというものであった。それは、反逆者のリーダーであるシュウの手で、聖帝の権威の象徴を完成させるという、あまりにも皮肉な刑であった。腱を切断された両足で、巨大な石碑を抱えながら階段を登り続けるシュウ。そしてその足が最後の一段に差し掛かったとき、遂にケンシロウが駆けつけた。そして同時に、ラオウ、トキの二人もその場に現れた。トキは、サウザーの体の謎の正体を知っていたのだった。

 頂上へと辿りついたシュウの身体に、無数の矢が打ち込まれる。急いで頂上へと駆け上るケンシロウであったが、それを嘲笑うかのように、サウザーの放った槍がシュウの身体を貫いた。だがその時、奇跡が起こった。光を失ったはずのシュウの目に、ケンシロウの顔が映ったのである。成長したケンの姿を見て、仁星の血が間違っていなかったことを確信したシュウは、ケンシロウの拳に時代を託し、聖碑の下で眠りについたのであった。

 ケンシロウとの最後の決着をつけるため、十字陵の階段を登っていくサウザー。その時、シュウの仇をとらんとする少年が、サウザーの足に釘を突き立てる。その少年の行為を指し、サウザーは言った。愛が人を狂わせる・・・愛ゆえに人は哀しみ、苦しまねばならぬのだと。かつて孤児だったサウザーは、先代南斗鳳凰拳伝承者オウガイに拾われ、拳を学んだ。だが15歳になった時、サウザーは鳳凰拳の伝承者となる試練において、相手が師オウガイと知らずに命を奪ってしまった。そのあまりに大きな哀しみから逃れるため、サウザーは愛を捨てて生きることを選んだのであった。聖帝十字陵は、サウザーの愛と情の墓であり、師オウガイへの最後の心なのであった。

 ケンシロウがいくら攻撃を当てても、やはりサウザーの秘孔を突くことはできなかった。だがサウザーの身体に両手の指を突き入れたその時、ケンはその血の流れに違和感を覚える。サウザーの拳に切り裂かれ、再び流血に塗れるケンシロウであったが、その時、サウザーの額から血が流れ落ちた。それは、遂にケンシロウが帝王の体の正体を掴んだ証であった。心臓の位置も逆、そして秘孔の位置も表裏逆。その特異体質が、ケンシロウの秘孔術を無効化させていたのであった。

 体の謎を見切られたサウザーであったが、鳳凰拳にはまだ秘拳が残されていた。天翔十字鳳。それは、対等の敵が現れたときに帝王自ら虚を捨てて立ち向かう、誇りをかけた不敗の拳であった。対するケンシロウも、秘奥義 天破の構えで応える。天空に舞う羽と化したその身体で、ケンシロウの攻撃を空切らせるサウザー。しかし、止めを刺さんとサウザーが跳躍したその時、ケンシロウが構えから攻撃に転じる。北斗神拳奥義 天破活殺。ケンシロウの指先から放たれた闘気が、宙空を舞うサウザーの秘孔を捉えた。体表に秘孔を浮き上がり、更に宙を舞う足の力までも奪われたサウザーに、もはや勝機はなかった。退かぬ!媚びぬ!省みぬ!帝王としての誇りをもって繰り出されたサウザーの攻撃を、渾身の一撃で迎撃するケンシロウ。だがそれは、苦痛を生まぬ北斗有情猛翔破であった。幼き日の温もりを知るが故に・・・誰よりも深い愛を持つが故にサウザーが狂ってしまったのだと言う事を、ケンシロウは知っていたのであった。

 師オウガイの亡骸に寄り添いながら、息絶えるサウザー。その哀しき男の死に呼応するかのように、聖帝十字陵の頂からシュウの血が流れ落ちる。同時に、十字陵は音を立てて崩壊を始めた。それは、聖帝軍という巨大勢力の終焉を意味していた。


・槍投げスキル
サウザーが十字陵頂上のシュウを貫いたあの超人的な槍投げスキルも、幼少期のお師さんとの修行の日々で磨かれたものだったんですねぇ・・・
・シュウに起こった奇跡の正体
ケンシロウの成長した姿を一目見たかった。そのシュウの最期の願いを、神は叶えた。今まで光を失っていた筈のシュウの目に、駆けつけたケンシロウの顔がハッキリと映ったのである。まさに奇跡と言える出来事だ。だがこれは本当に奇跡だったのか?あまりに出来すぎではないのか?
もしかしたら
シュウは少し前から視力が回復し始めていたのではないだろうか。しかし、シュウはそれに気付かなかった。視覚以外の4覚と心の目で戦うシュウは、普段から視覚を完全に閉ざすことで、他の感覚を研ぎ澄ましていたのだ。心眼の修行をする者が目隠しをする状態を、常時作り出していたのである。故に、視力が回復し始めていた事に気付かなかったのだ。だが槍で胴を貫かれ、朦朧となったあの時、意図的に閉ざしていた視覚にも感覚が流れ込み、ようやく己の目の快復に気がついた・・・・なんていうちょっとドジな理由があったのではないかと。
・トキが知っておるわ
ケンシロウをダウンさせ勢い付くサウザーに対し、ラオウ様は言う。「おごるなサウザー!きさまの体の謎はトキが知っておるわ!」。このシーンを取り上げて「自分で戦うわけじゃないのに強気なヘタレ」みたいに揶揄する輩がしばしばいる。確かにそう思われても仕方が無い部分もあるが、私はラオウ様というキャラクターの性格がよく表れた名台詞だと思う。
まずラオウ様が戦わないのは当然の事だ。今まで一貫して戦いを避け、体の謎を解く為にケンシロウの命まで救ったというのに、
あの程度の挑発に乗せられて階段を登りだすほうがよっぽど恥ずかしい。ラオウ様には覇権を握るという野望がある。その為には圧倒的な力を示す必要があるため、傷つくことすら許されない。故に不確定要素の多いサウザーを倒すためならば、ケンシロウだろうがトキだろうが使えるコマは使うのが正解なのだ。
しかし問題視されているのは、戦わなかったことではなく、あの台詞を「言った」事の方だろう。自分で行かないのにあんな言い返しをするのは虎の威を借りているようで情けない、と思われているのだ。しかしそれは大きな間違いである。
あれは驕ったサウザーに言い返したのではない。忠告をしたのだ。先の戦いでサウザーは、余裕綽々でケンシロウの秘孔攻撃を喰らっていた。己の体の謎がバレていないと確信していたからだ。だがトキとの戦いでもその余裕を見せたなら、彼はどうなるだろう。そう、爆発四散である。よくて有情拳でちにゃって終わりだろう。南斗の帝王ともあろうものがそんな情け無い死に方をするのは、ラオウ様とて見たくはなかったのだ。故にラオウ様はあの言葉を口にすることで、緩みきったサウザーに緊張感を与えたのである。
・天翔十字鳳の真髄
天翔十字鳳を繰り出したサウザーは、まるでその身を霞の如く変え、ケンシロウの攻撃を次々と空切らせた。本人の弁によると、彼の身体は天空に舞う羽根と化していたらしい。だが本当に羽毛状態なら天破活殺も躱せた筈。奥義を受けたサウザーが後方に吹っ飛ばされていたという事は、衝突エネルギーが発生していた証であり、それならパンチ同様にヒラリと回避できていなければおかしい。では一体、天翔十字鳳の真髄とはなんなのだろうか。
ケンが放った天破活殺のもう一つの特性。それは
目に見えないという事。技を喰らったとき、サウザーは「な・・・これは!?」と口にしてるし、兵士も「ああ、なんだ」と声を上げていた。それは、誰一人としてケンシロウが飛ばした闘気の弾が見えていなかったということに他ならない。この「見えなかった」という点が大きかったと私は考える。つまり天翔十字鳳は、無想転生のように無意識状態であらゆる攻撃を回避できるわけではなく、サウザーが攻撃を目視し、着弾のタイミングを量って「回避行動」を取った時、はじめて敵の攻撃をすり抜けることが出来る技だと考えられる。
ではその回避方法とは何か。そのヒントはサウザーの最後の跳躍にある。脚を封じられたサウザーは逆さまの状態から腕の力だけで舞い上がり、ケンシロウへと飛び掛った。しかしこの時は、ケンシロウの攻撃を全く躱すかわすことができず、その身に北斗有情猛翔破を叩き込まれている。なぜ躱せなかったのか。先ほどまでと何が違うのか。それは、脚の動きを封じられてしまっていた事だ。つまり
天翔十字鳳でサウザーが敵の攻撃を回避するには、脚の動きが必要不可欠なのだ。
サウザーには見えない踏み込みという技がある。それを可能としているのはサウザーの超人的な脚力。ケンシロウとの初戦で一気に間合いを詰めてみせた、あの脚の力だ。あの強烈に地面を蹴るダッシュ力が、天翔十字鳳にも生かされているのだと私は考える。ジャンプしたサウザーに向かい敵が攻撃を放った瞬間、凄まじい勢いで宙空を蹴る。通常ならそこに抵抗は生まれないが、音速に近い速度で動く物体の先端の空気は圧縮され「音の壁」が生まれる。サウザーはこれを足場にし、空中版の「見えない踏み込み」を行い、敵の攻撃を回避しているのだ。宙にいる相手の落下速度が途中で変化するという事態は相手にとっても想定外であるため、当たったはずの攻撃が空を切ってしまうのだ。
よく見ると、
サウザーが最初にケンシロウのパンチを躱した場面と、次のコマで手刀を振りぬいたシーンでは脚の前後がそれぞれ逆になっている。つまりサウザーはこのゼロコンマ秒の間に左脚を後ろへとやった・・・イコール、超スピードで空中を蹴ったという証拠なのだ。
この時点では左脚が前にあるが 躱した後は右脚が前に変わっている

ケンはサウザーの脚を封じたとき「貴様は翼をももがれたのだ!」と言った。これは跳躍を封じたという意味ではなく(実際腕で飛んでるし)天を舞う羽根に成る事を封じたと言う事・・・・つまり脚を動けなくすることで宙空での回避術を封じたという意味だったのかもしれない。
・有情猛翔破
ケンシロウがサウザーへの止めに使用した奥義、北斗有情猛翔破。これにより秘孔を突かれたサウザーは苦痛を感じることなく最期を迎えたが、その見た目は、コブシが腹に突き刺さるというかなりの痛々しさだった。そもそも「猛翔破」という字面からしてヤバい。「翔んでるヤツを猛烈な勢いで破壊する」って意味だもの。そんな奥義使っておいて苦痛を生まぬって言われても、ねえ。痛がらせる気があるのかないのかどっちなんだと。
私が思うに、その答えは「どちらも」なのだろう。戦いの前、ケンシロウはサウザーに「髪の毛一本もこの世には残さぬ」と宣言するほど激怒していた。サウザーが行ってきた数々の所業に対する仕置きは、どんな理由があろうともキッチリ行わねばならない。しかし同時に、愛深き故に愛を捨てた哀しき男として、最期くらいは安らかに死なせてやりたいという思いもあった。そんな矛盾を抱えた中でケンシロウが選んだのが、北斗有情猛翔破という奥義だったのだ。
最初の連撃からの腹貫通パンチの部分は、おそらく見た目通りの痛みがあったのだろう。これがサウザーに対する仕置きの部分。北斗神拳奥義「北斗猛翔破」だった。しかし同時にその時に秘孔を突き、その後サウザーは苦痛を感じることはなかった。それが「有情拳」。
怒りの猛翔破と情けの有情拳を混在させた、ケンシロウのオリジナル奥義。それが北斗有情猛翔破という奥義なのである。

【TVアニメ版での主な変更点】
原作ではトキがラオウのもとを訪れ共に出発するが、アニメでは各自で向かっている途中に合流。
サウザーのオウガイの呼び方が、お師さんから先生に変更
原作でサウザーは有情猛翔破を無防備に喰らうがアニメでは多少拳を交錯させた後。

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