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第壱話
『呪縛の街』
第弐話
『禁じられた拳』
第参話
『男が哀しみを背負うとき』
登場人物 流派・奥義 STAFF 小説差込漫画




新・北斗の拳

は、「小説・北斗の拳 −呪縛の街−」をアニメーション化した、全三巻からなるOVA作品。製作はオービー企画・「新・北斗の拳」製作委員会。アニメーション制作はACGT。脚本は堀江信彦氏、戸田博史氏。

漫画「北斗の拳」終了後の世界を舞台とした作品であり、ゲーム版を除くと、北斗の拳の中では一番後の時代の物語を描いた作品という事になる。ラストランドを舞台に繰り広げられる覇権争いや、親子の確執、生き別れた弟への愛など、様々な思いが交錯する中で、ケンシロウと新たな敵との鮮烈なバトルが描かれている。また、存在しないはずの"北斗の一派"「北門の拳」が登場するなど、北斗神拳の歴史という観点からも興味深い作品となっている。北斗の拳に登場したキャラクターは、ケンシロウ以外殆ど登場しないが、OVA版ではラオウの遺児・リュウが少しだけ登場しており、彼の登場していた頃のエピソードはアニメ化されていなかったため、貴重なシーンとなっている。

アニメーションには3DCGが多数使用されており、特に建物や車両などへの力の入れ具合が見て取れる。ただそのせいか、やたら車が走っているシーンが多いのが難点。作画のほうは全体的に綺麗ではあるが、何故かケンシロウの豊麗線(鼻の横から唇の両端に伸びるシワ)がやけに強調されており、少し老けて見えるカットが多い。また、北斗神拳による破裂シーンは劇場版北斗の拳並のグロい描写となっているが、特に年齢制限は設けられていない。


 オープニングテーマ「Lu:na」と、エンディングテーマ「OASIS」を歌うのは、自身も北斗の拳の大ファンというGackt氏。特に「OASIS」は、北斗の拳の荒廃した世界観をイメージした曲ではあるが、これは氏の北斗好きが高じて勝手に作った曲であり、「新・北斗の拳」に合わせて作られたわけではないらしい。そしてその曲の発表から二年半後に、この作品の曲として使いたいというオファーが来たのだそうだ。
 その流れで声優としても作品に参加する事になったGackt氏は、今回セイジという重要な役所のキャラクターを演じている。「誰かに思いを届けるという意味では歌手も声優も同じだと思っている」という持論そのままに、声優初挑戦とは思えぬ好演ぶりで、セイジというキャラクターの思いを視聴者に届けてくれている。全体的に少し声量が小さいという問題はあったものの、上手さという点では芸能人声優の中では随一と言っていいのではないかと思う。阿部氏といい宇梶氏といい、北斗の拳に参加してくれる芸能人の方々は皆真剣な気概が伝わってくるから好きだ。

 一方、ケンシロウの声を充てておられるのは声優の子安武人氏。この作品を切欠に(?)後に鼻毛神拳の使い手の人の声も担当することになる子安氏だが、個人的にはあまりケンシロウにマッチした声であるとは思えなかった。彼の鼻にかかる独特の声色は、知的な二枚目スマートキャラが適役であり、ケンシロウのような屈強な肉体を武器に戦う主人公キャラクターには向いていないと感じた。好き嫌いで言えば、真シリーズを担当する阿部氏のほうが個人的には好きだ。しかし流石というか、ケンにとって最も大事だと言ってもいい「あたたた」部分は、神谷氏の全盛期と比べても遜色の無い上手さであった。この辺は阿部氏が逆立ちして敵わないだろう。


 本作で敵として登場する拳法家は、はサンガとセイジの二名。人を支配するという支配の愉悦に心狂わせたサンガ、父への憎しみを糧にケンを会得した天才セイジ。いずれも過去の北斗には無いエピソードを抱えた、ケンシロウの新たなる敵として立ちはだかる両名であるが、残念ながらケンシロウを苦戦させられるほどの実力者ではなかった。故にケンシロウの旗色を左右させる新たな存在として「国民」という要素が加えられているのがこの作品の特徴でもある。
 ただやはりそれは北斗の拳という作品の本来のカラーではない。闘いの背景にある愛や憎しみといったストーリーも勿論大事だが、やはり男と男が拳をぶつけてどちらが強いのかを決める白熱の闘いが無いと、作品としては盛り上がりに欠けてしまう。
 これはカイオウ没後の原作ストーリーや、携帯小説ケンシロウ外伝にも言える。サウザー、ラオウ、カイオウといったカリスマ敵ライバルキャラクター達に比肩するような敵を登場させる事が出来ない以上、これは避けられぬ宿命なのだ。
 そう考えると、この作品はOVA三部作などという大げさな作品にするには不向きなストーリーであるとも言える。もしかしたら小説のままにしておくほうが良かったのかもしれない。ただ、クリフランダー達の総本山が描かれたシーンなどは、OVAで新たに追加されたエピソードであり、これは小説で希薄だった北門の拳の存在を明確に浮き立たせるいいエピソードだったと思う。其のほかにも、「蒼天の拳」で登場した秘孔 上顎が登場したり、第一巻で登場した秘孔額中が、第三巻で意外な形で登場するなど、細かい追加シーンも要所要所に差し込まれており、決してOVA化して劣化したわけではないことも確か。
 要するにこの作品は「漫画には無い北斗の拳の新たなストーリー!」と勝手にハードルを上げず、「小説・北斗の拳の映像化」という目線で見ろという事だ。

【DVD発売日】
・第壱話 呪縛の街/2003年7月24日
・第弐話 禁じられた拳/2003年10月23日
・第参話 男が悲しみを背負うとき/2004年5月28日



小説 北斗の拳

1996年12月18日に集英社より発行されたノベライゼーション。「jump novel」vol.11(1996年8月18日号)に掲載されたのが初出であり、この時はサンガの死までが掲載されていた。挿絵は勿論原哲夫氏が担当しているが、既に連載終了から10年近く経過していた事もあり、絵柄は当時連載中だった「猛き龍星」に近しいものになっている。