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章烈山
しょうれつざん



登場:第57〜104話
肩書:国民党西北軍総司令 紅華会御大
戦法:巨体を生かした戦法 釵
CV:楠見尚己(パチスロ)

 紅華会の元帥。元北洋軍閥にして国民党西北軍総司令。北斗曹家拳の伝承者である章大厳の息子であり、張太炎の母違いの兄。
 異常な巨躯の持ち主で、煙草や電話、車に至るまで全てが特注サイズ。本人は大きいと感じさせられる事を非常に嫌っているが、戦いにおいてはその巨漢こそが最大の武器であると自負している。しかしイチモツだけは普通サイズであり、女も小柄な方が好きだと口にしている。

 かつて北斗曹家拳の伝承者になる事を望んだが、父・大厳にその小心翼々たる性格を見抜かれ、政治家としての道を歩む事に。国民党の司令官でありながら、裏では共産党とも結びつく大悪党へと成り上がり、更には紅華会の御大として一時は上海をその手中に収めた。

 その後、陝西省の西安にて国民党軍を指揮していたが、青幇が復活したため、霊王馬賊達を上海に送り込むなどして紅華会を援護。その一方で、女馬賊の李秀宝から救援を要請され、その報酬として秀宝を嫁に貰う事を勝手に決定。紅華会の崩壊にあわせて上海へと乗り込み、閻王や青幇の抹殺を図ると共に、李秀宝を捕らえようとした。しかし、李秀宝が日本軍への帰順という道を選んだため、裏切り者として彼女も殺すことに。次々と刺客を送り込んだ結果、その兄である潘光琳を再起不能にすることに成功した。

 崩壊した紅華会の勢力を取り戻すため、伝説の将軍・羅虎城を上海に召喚。馬賊達を構成員とした「第二紅華会」を作り上げ、その頭に羅虎城を据え、再び上海を手に入れようとした。しかし、拳志郎の策によって羅の晩餐会へと誘き出され、そこで拳法家として死合う事に。巨大な釵を武器に攻め立てるも、北斗神拳の前には通用せず、完敗した。
 その後、拳志郎に殺されそうになるが、張太炎がそれを制止。父・大厳が本当に愛していたのは烈山のほうであり、北斗曹家拳を学ばせなかったのは、実の父を殺さねばならないという宿命を背負わせたくなかったからであることが判明。日本と対立する今の中国には、国民党と共産党を団結させられる烈山の力が必要だとして、今しばらくの命を与えられる事となった。その代償に、今後は天の命ずるがままに生きる事を誓い、その証として太炎に両目の光を奪わせた。
 以降はどうなったのか明らかにされていない。

 TVアニメ版には登場せず、彼が関わるエピソード(馬賊を上海へ送り込むなど)は、それぞれ別の理由に差し替えられた。






 蒼天の拳の物語は、章烈山以前、章烈山以後に分けられる。彼が敗北した瞬間、物語初期の最大敵対勢力である紅華会は、塵も残さず消え去った。これは作品の中でも最も大きな節目だと言えるだろう。つまり彼は、前半戦の大ボスであり、いろんな意味で大きい存在だった。

 そしてもう一つ、ストーリー上ではなく、作風という意味でも彼の存在は大きなターニングポイントとなった。ストーリーが史実を基にしたものであったためか、蒼天の拳の序盤は正直「はっちゃけ度」が控えめであった。判りやすく言うと、北斗の拳に出てくるような奇抜なキャラが少なかったのだ。出てきてもゴラン程度のガタイや、紅華会のような機械化ボディが精々で、あとはほとんどがスーツを着た中肉中背ばかりだった。そんな流れをぶち壊すかのように、いきなりデビルリバースに匹敵しうる巨人が登場してきたのだ。これで堰を切られたかのように、羅虎城やノミの孔といった、逆の方向で非人間的なキャラクターが登場しはじめ、ストーリーのほうも、ヤクザのいざこざから拳法家達の因縁の話へと、大きく変わっていった。それもこれも全て章烈山の影響・・・とまでは言わないが、彼が作品にもたらした変革はとてつもなく大きかったと言えるだろう。


 彼は拳法家ではないが、やはりあれだけ大きいのだから、強さのほうにも目を向けてみたい。拳志郎には一方的に敗北してしまったわけだが、実際のところ、あれほどの巨躯を持つ人間のスペックというのはどんなものなのか。

 烈山の身長を10mと仮定し、身長と体重の比率をケンシロウ(185cm 100kg)と同じとして計算してみよう。10m÷1.85m=約5.4。つまり烈山の身長はケンの5.4倍。体重は身長の3乗に比例するので、ケンシロウの100kgに5.4を三回掛けて100×5.4×5.4×5.4=約15746kg。ケンより若干骨太な感じも加味して、烈山の体重はおよそ16トンという事になる。それだけの体重を支えながら、日々を生きているというだけで十分凄い。立って歩けているだけで奇跡である。父・大厳に会ったとき、烈山は自分の身長ほどの高さまでも飛べないと口にしているが、そりゃ16トンの身体で10メートル飛び上がれというのは無茶だ。デビルリバースが異常すぎるだけなのである。ただ、機敏に動けないというのもまた事実。あの釵を振り回す以外の攻撃方法は期待できず、また防御面も壊滅的と言えるだろう。さしてカタいわけではなさそうだし。

 その釵を用いての攻撃だが、これはナイスチョイスだと言えるだろう。彼が武器を振り回したならば、どう当たろうとも暴走車なみの威力があるだろうから、手数とスピードが期待できる釵はベストだ。実際、カスっただけで拳志郎の背に大きな傷を作った程なので、直撃さえさせれば殆どの相手に勝利できるだろう。
 あれだけのガタイなのだから、もっと大きな武器を持ったほうが良いと思われるかもしれない。しかしリアル基準で言うなら、烈山ほどの身体をもってしても、あの程度の重量が限度なのだ。筋力というものは筋肉の体積ではなく、断面積に比例する。つまり3乗ではなく2乗になる。烈山の筋力が、ケンシロウサイズの場合でベンチプレス100kgをあげれるとしたら、100kg×5.4×5.4の約3トンしか持ち上げることができないのである。ケンシロウが牙大王を殴りつけた鉄骨がおよそ2トン程らしいので、片手ではあれすら厳しいレベルなのだ。そうは言っても実際彼はその脚で16トンを支えているので、腕の筋肉も常人レベルでは無い可能性が高いが、それでも手数とスピードを重視するならやはりあの釵くらいが丁度いいだろう。

 以上の様な結果を総括して考えると、やはり中途半端と言わざるを得ない。リアルならボディプレスで全て片付くが、逆にそれが致命の一手となりかねないような男たち相手では、どう足掻いても彼に勝ち目はないだろう。もちろんそれは彼が拳の道を閉ざしたからというのもあるが、修行を続けたら続けたで巨漢レスラーあるあるそのままに膝をイワしたりしていた可能性は高い。父の言うとおり、やはり烈山に向いていたのは拳法家ではなく政治家・・・・いやそれも違う気もするが。


 しかしこのデカさ、確かに彼の最大の特徴ではあるのだが、逆に言えばデカい以外はほぼ印象に残らないキャラとも言える。その原因の一つに、デカさイジリが多すぎた点が挙げられるだろう。具体的に言うと、烈山がデカすぎて周りの者が迷惑するというミニコントだ。その全てを書き出してみると

・ショットグラスと思いきや実際は樽ほどの大きさのグラス
・葉巻に火炎放射器で着火。特注サイズの電話が小さいと文句
・長細い受話器が耳かきみたいだと怒る
・サイズに見合う馬がいないので象を用意される
・パラシュート3つ使って上海へ降下
・特注サイズの車でゴキゲンも、葉巻に合う灰皿が無く車が火事に
・葉巻に合うサイズの灰皿を用意されるもすぐ割れる
・大きすぎて報告をしにきた男の姿をすぐ見失う
・風呂がデカすぎてプール状態
・銀行の1フロア使ってねそべる
・羅虎城と会うもサイズが違いすぎて遠近感が狂う
・舞台上でも立つことができず四つん這いで羅虎城を見守る
・2メートルの女が掌に乗るサイズ

といった具合だ。

 問題なのは、この「デカさをイジった数」と「烈山の登場回数」が、ほぼ一緒だという事だ。彼が登場するたび、毎回必ずこういうミニコントが挟まるのである(章大厳と会っている時を除く)。正直言ってこれは中々しんどい。いくら鉄板ネタとはいえお腹いっぱいである。なにより、そっちのほうに意識をとられて話の筋が入ってこない。デカいという情報がストーリーの邪魔になっているのだ。これは彼のラストシーンでも言えることで、父・章大厳が烈山を愛していたと言われても「こんなデカいのに・・・?」と思ってしまったり、視力を捨てて国のために働くと言われても「こんなデカいのに視力なしとか周りが大変じゃない・・・?」と思ってしまったりと、余計な思考が感動を妨げてしまうのである。

 以上のような理由から、私個人の感想としては、烈山はあまり成功したとは言いがたいキャラクターであると思う。彼をより魅力的なキャラにしたいなら、紅華会の中でも三番手辺りのポジションに止め、政治などの小難しい設定は与えず、ただその体躯を武器に強さを追い求める武芸家にすればよかった。しかし、それではデビルと大差ないし、あまりにもありきたりの設定だ。もはや数々のキャラクターを生み出してきた原先生にとっては、そういったセオリーをぶちこわしたいという思いが強かったのだろう。故に紅華会の御大という超重要なポジションなキャラクターに、あれほど突出した個性が与えられたのではないか。章烈山というキャラクターを生んだのは、既にベテランの域に入った原先生が、新たなる境地を開くために勝負を掛けた「挑戦」だったのではないかと私は思う。