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シュレン



登場:原作(111〜112話) TVアニメ版(86〜87話)
   ユリア伝、ラオウ伝激闘、真北斗無双、北斗が如く、他
肩書:南斗五車星
流派:炎燐拳
CV:若本紀昭(TVアニメ)
   檜山修之(ユリア伝、リバイブ)
   宮崎寛務(真北斗無双)
   関智一(DD北斗の拳)

 南斗最後の将を守護する「南斗五車星」の一人。通称 炎のシュレン。燐を使い炎を発生させる炎燐拳の使い手。同じ五車星である風のヒューイは弟星にあたる。

 南斗最後の将の元へと向かう拳王の進軍を止めるため、そして弟星ヒューイの仇をとるため、朱の軍団を率いて出陣。峡谷に差し掛かった拳王軍に向けて無数の火矢を放ち、先制攻撃を仕掛けた。その後、自ら拳王と相対し、まずはけしかけられた二人の戦士五車炎情拳で瞬殺。続けて拳王との一対一の戦いに臨み、炎で視界を奪って背後から攻撃するという奇襲攻撃を繰り出したが、全く通用せず、右手と右足を破壊されて一気に劣勢に。それでも諦めることなく、全身に炎をまとって拳王に飛び掛り、自らの命を捨てて拳王を焼き殺そうとした。その覚悟の理由を問われたシュレンは、全てはの目を涙にくれさせぬためだと回答。しかしその執念を持ってもしても、拳王の肉体に傷を負わすことすらできず、最後は首を180度捻じ曲げられて殺された。

 かつて拳王軍がサザンクロスへと進撃した際には、リハク等と共に街へと先回りし、ヒューイと二人で拳王軍を偵察。その動向をリハクに報告した。


 TVアニメ版では、出陣の前に自らの居城を燃やすことによってヒューイを弔い、同時に己達の帰る場所を失くす事で部下達を鼓舞した。奇しくも拳王がシュレンに見せようとした「背水の力」を、シュレン自身も用いたということになる。
 また、拳王の本隊を襲う前に侵攻隊のひとつを壊滅させるという原作に無かったエピソードも描かれた。


 『真救世主伝説北斗の拳 ユリア伝』では、南斗最後の将の命を受け、レイを捕獲する作戦を決行。女装して荒野を歩いていたレイに話しかけた後、炎を飛ばして先制攻撃を仕掛けることで、フドウ、ヒューイらがレイを捕えるためのサポートを行った。

 『ジュウザ外伝 彷徨の雲』では、ヒューイと共にジュウザの元を訪れ、将のもとに戻るよう説得。ジュウザを動かす事はできなかったが、いずれ宿命がジュウザを導くとして、その場は引き下がった。
 その後、魔狼へ変貌したリュウガと遭遇し、ヒューイと二人がかりで挑むも、二人まとめて返り討ちにされた。
 また、幼少期にジュウザ等と共にリハクの下に集められ、将を守る宿命を持った者として訓練を受けるというエピソードが描かれた。ジュウザに才で遅れをとるも、己たちの宿命を全うせんと拳の道に邁進する姿が描かれている。

 『北斗の拳外伝 金翼のガルダ』では、南斗の将の城へと向かうガルダを止めるため、ヒューイの後を継いで登場。炎の幻影で惑わせたり、駆けつけたヒューイと協力して五車炎情拳を繰り出したりしたが、いずれも通用せず、奥義 輝翔斬を受け敗北した。その後、ガルダを追って将の城へと戻り、フドウ、ヒューイと共に3人がかりで戦いを挑んだが、それでもほぼ互角の戦いに持ち込むのが精一杯だった。


 原作1話以前の話を描いた『小説 ケンシロウ外伝』では、リハクの密命を受け、ヒューイと共にケンシロウの動向を監視。シンに敗れた後のケンシロウの動きを追ううち、クマムシに襲われていた崑崙村の一団を救い、共にナザニエルへ。そこで殉教にとりつかれた人々の異様な姿を目撃し、ケンシロウが救世主として如何に彼等を救うのかというその一部始終を見届けた。

 『北斗の拳イチゴ味 五車星GAI伝 其之一 Red Blue』では、炎燐拳の内弟子として拳を学んでいた少年時代に、後の兄弟分であるヒューイと出会った時のエピソードが描かれている。自らに見合う相手を求めて風仁拳の道場へと押しかけ、同年代の天才拳士であるヒューイと対決。だが燐による炎の拳はヒューイの操る風によって消し飛ばされ、最後は自らの身を焼いて攻撃しようとしたが、リハクが割って入り水入りとなった。





 初登場時から涙をダーダー流していた、まさに炎の名に恥じぬ熱い男。アニメでは居城に火を放って帰る場所を無くすことで、自分や部下達の士気を高めるという更なる熱盛具合を拝むことが出来る。おまけに声を担当するのはあの若本規夫氏(当時の芸名は若本紀昭)。常人とは異なる所にアクセントをつける若本氏独特の喋りも十分に堪能できるので、シュレンファンは一度は見るべきだろう。

 ヒューイに次ぐ五車星第二の刺客として登場したシュレンであったが、残念ながら彼もまた先鋒と大差ない惨敗という結果に終わった。どちらかというと、彼が登場する前の炎軍団による火矢の一斉射撃のほうが敵軍に対するダメージとしては大きかったような気がする。

 しかしそれでもヒューイよりは幾分か見せ場は作った。その一つが、小手調べとして差し向けられた二人を五車炎情拳でまとめて葬ったシーンだ。同じようなシチュエーションとして、シャチが殺・斬の二人を同時に相手した場面が挙げられる。相手のレベルがダンチなので単純に比較は出来ないが、シャチが片方に標的を絞っていたのに対し、シュレンのほうは二人の頭部を同時に掴んで炎上させるという圧倒的な勝ちっぷりを見せた。まだまだ若造には負けない、熟練ならではの余裕というものが伺えるシーンだったと言えよう。まあ戦ったら多分シャチが勝つと思いますけどね。

 そして最大の見せ場は、やはり最後に見せた全身に炎を纏っての特攻シーンであろう。結局は拳王どころか黒王号のタテガミ一本すら燃やすことが出来なかったわけだが、その命を賭した行動は、シュレンという男の覚悟を強く拳王に印象付けた。これにより拳王はますます南斗最後の将への興味を募らせ、競争相手であるケンシロウを妨害するにまで至るのであった。

……駄目じゃん!!



●「火属性」の男

 彼は、いわゆる「火属性」にあたるキャラクターである。こういったエレメント属性のキャラクターというのは、北斗の拳では非常に珍しい。むりやり当てはめるなら泰山天狼拳は氷雪系、元斗皇拳は光、北斗琉拳は闇・・・といった感じにもできるが、彼らは別にその"属性"で攻撃しているわけではない。真に属性キャラを名乗っていいのは、「風」で攻撃するヒューイと「炎」で攻撃するシュレン。この二人くらいのものなのだ。

 一般的な「火属性」のキャラの設定として挙げられるのは、まず「熱い性格」。初登場時から号泣していた男なのだから、これはピッタリ当てはまっている。そして「水に弱い」。これは実際にアイスバケツチャレンジしてもらわないと判断できないが、シュレンが発火に用いている「燐」は、種類によっては水中保存も可能なので、その弱点は克服している可能性もある。凄いぜ。

 しかし火属性の中でも最も好印象な要素である「強い」というイメージ。こればっかりは全くといっていいほど体現できていなかった。もちろん相手が悪すぎたというのもあるだろう。しかしそれよりも、北斗の拳連載時にはまだ「属性キャラ」という概念が無く、作り手側、読者側にも「火属性=強キャラ」というイメージすら無かったのが原因だと思われる。

 だからといって今の時代に北斗の拳が連載されていたところで、シュレンが強キャラになっていたとは思えない。そういった属性キャラだの、ライバルが仲間になるだの、トーナメントだのといういかにも「ありがち」な設定を用いないのが北斗の拳という作品の魅力なのだから。



●炎は風を上回っていたのか

 多少粘ったとはいえ、拳王という巨人を前に弟星ヒューイと大差ない惨敗を喫したシュレン。その結果から、彼の実力は「ヒューイに毛が生えた程度」と認識されている。果たしてその評価は正しいのだろうか。

 シュレンの戦闘スタイルにおいてやはり肝となるのは炎。つまり注目すべきは、それを発生させている「燐」ということだ。調べてみたところ、燐にも色々な種類があるらしいのだが、その中でもシュレンが主力として用いているのは「赤リン」であると思われる。これに火薬を混ぜた混合剤を宙に撒き、そこに火花を起こすことで発火させているのだろう。一番発火しやすいのは「黄リン」なのだが、これは60℃程の空気中で自然発火するため、水の中で保存しなければならないらしい。かつ猛毒であるため、そんなものを持ち歩いていればシュレン自身の命が危うい。故にこちらを用いている可能性は低いだろう。
 で、肝心なのはその赤リンを武器として用いたときの威力なのだが、調べても特に目を見張る効果は無かった。いわば赤リンから生み出せるのは、普通の「火」ということだ。粉塵爆発を起こすことも可能だが、なんとなくシュレンの性格からしてそれは使わないような気がする。というかやるなら拳王様戦でやってるだろうし。

 しかしただの火とは言っても、他の拳士には無い唯一無二の武器であることは確かだ。特に戦闘において有効となるのは、火を怖がるという動物の本能を突き、相手に隙を作るという点だろう。一瞬の隙が生死を分ける戦いにおいては、かなり効果的な武器になるはずだ。

 逆に、威力のほうに関しては、炎にそこまでの期待は持てないだろう。五車炎情拳にしても直接の死因は炎でなく拳による切断だし、炎があるから切断力が増すわけでもない。もし斬撃での傷が浅かった場合、下手をすれば炎で傷口が焼かれて血が止まるという焼灼止血法の効果を生んでしまう可能性もある。むしろ逆効果にもなり得るということだ。

 そもそも相手を火で焼き殺すためには、それこそ灯油をぶっかけるなどして長時間相手を燃やす必要がある。粉である燐だけでそれを行うのは、かなり難しいと言えるだろう。思い返せば、ラオウ様への先制攻撃に使用した炎も、あくまで目くらましとしての使い方であった。本命は背後からの貫手突きだったのだ。「炎のシュレン」とは言っても、彼にとって炎は補助的な存在に過ぎないのだ。

 しかし最後にシュレンが繰り出したのは、自らに炎を纏い、命を捨ててラオウ様を灰にするという相打ち技であった。己自身を燃焼材と化すことで、決して消えることの無い炎を生み出し、その燃焼力を持って相手を焼き殺す―――。これぞまさに「炎の男」の闘い方と言えるだろう。だがこれを使えるのは、人生でたった一度きり。自らの命を捨てる覚悟を決めたその時だけ、彼は真の"炎のシュレン"となることができるのである。


 あくまで己のイメージに過ぎないが、拳の殺傷力だけで言えば、風を友とするヒューイのほうが上だろう。射程距離も長そうだ。一方シュレンには、炎による威嚇という付加要素がある。トータルでの攻撃面では両者互角だと言えよう。しかしシュレンが命を捨てて敢行する燃焼攻撃は、風の拳では決して成し得ない必殺の拳。その相打ち能力の高さこそがシュレンという男の強さであり、弟星ヒューイを一歩だけ上回る要素なのではないかと思われる。