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エリカ・アレント



登場:蒼天の拳(第105話〜)
   蒼天の拳リジェネシス
   蒼天の拳REGENESIS
肩書:希望の目録
CV:小池いずみ(ぱちんこ)
   上坂すみれ(REGENESIS)

 「希望の目録」を持つ少女。直観像記憶の能力により、目録の中身を全て記憶している。

 家族と共に「希望の目録」を運ぶ途中、モスクワにてナチスの襲撃を受け、一人だけ生還。自らを守って死んだに、最後のぬくもり求めるその姿が、死鳥鬼である流飛燕に人間の心を取り戻させた。以後、飛燕と共にハルピンへと旅を続け、自らを守る飛燕に深い信頼感を抱いた。

 ハルピン到着後、ギーズ大佐の元に送られることとなり、飛燕と共に上海へ。飛燕の兄・彪白鳳のいる共産党員のアジトに匿われるが、ナチス軍にかぎつけられたため、拳志郎の手引きによって脱出。その後、飛燕が拳志郎と戦う決意を固めたため、玉玲の下に預けられる事となった。だが飛燕を捨て置くことが出来ず、爆弾が投下される街中を駆けつけ、自分には飛燕が必要だという想いをぶつけることで、飛燕の自害を止めた。

 その後、神父となった飛燕と親子として生活していたが、ヤサカの手にかかり飛燕は死亡。拳志郎の言葉から飛燕の死を悟り、巣立ちの時が来たのだとして、強く生きていくことを誓った。後にヤサカ本人から謝罪を受け、その生死を委ねられるも、いずれナチスによってその命は奪われるだろうと語り、ただ飛燕のために祈って欲しいとだけ告げた。


 『蒼天の拳リジェネシス(漫画)』では、オランダ軍に浚われるが、その背後にいる「ジェネシス」なる組織の狙いが目録ではなく、自身に流れる血が関係していることが明らかに。救出に駆けつけた拳志郎とヤサカと共に、敵の本拠地があるインドネシアへと乗り込み、己の素性の秘密を探らんとするストーリーが展開する(現在も連載中)。


 『蒼天の拳REGENESIS(アニメ)』でも同様に「ジェネシス」からその身を狙われ、玉玲たちと共にインドネシアへと移住。4年後、再び現れたジェネシスによって捕えられ、己がナハシュの神である「ミガドル」であり、かつて父・ロバートより授けられた核分裂装置の設計図が、世界を再創生するための「ミガドルの雷」であることを知り、頑なに協力を拒んだ。拳志郎の手によりジェネシスは壊滅するも、自らをかばってヤサカが死に、そして拳志郎も霞拳心に致命の秘孔を突かれたことで、己の記憶が愛する者達を殺していると絶望。死を選ぼうとするが、共に哀しみを背負うという拳志郎の言葉に救われ、全ての記憶を消し去って生きる道を受け入れた。




 玉玲が記憶を取り戻して拳志郎と再会した時点で、玉玲の物語は一段落を迎えた。その後を継ぐ第二のヒロインポジションとして登場したのがこの娘だ。儚げな金髪幼女という設定の破壊力は凄まじく、瞬く間に読者は彼女にハートを射抜かれることとなった。男はみんなロリコンなのである。

 彼女の魅力は、いじらしさだ。子供とは思えぬ気丈さで、哀しみをグッと堪え続ける様は、なんとも健気で可憐だ。「どんな辛いことがあっても泣かない」との母との約束を守るため、ひたすら哀しみを押さえ込む。二本の指で口角をあげるあの仕草は、己の哀しみを誤魔化すことで涙を流さぬための世界で一番哀しいピースサインなのである。

 彼女の不幸は、直観像記憶を持って生まれたところから始まった。希望の目録をなんとしても隠したかったユダヤ人達は、エリカの能力に目をつけ、彼女の脳内にのみ目録の内容を残すことにした。もし秘密がバレたら、ナチス全体が彼女を狙ってくることを知りながらそうしたのだ。幼きエリカがそれを望んだはずは無い。両親の意思でもないだろう。彼女に備わっていた才能が、平凡に生きていた一家の運命を狂わせたのである。

 だが彼女は、その運命を呪ったりなどしなかった。自らの持つ能力や、己を希望の目録に仕立てた者達、そして己を狙うナチスにも、恨みの言葉一つ吐くことなく、自らの宿命を受け入れて生きていたのだ。感情を露にすれば、すぐにでも涙が零れてしまう・・・母との最後の約束を、裏切ってしまうことになるから。だが言葉にはしなくとも、彼女は無言のうちにその哀しみを見せてしまう。ハルピンに向かう列車の中で、飛燕の膝を枕に借りたエリカは、そのゴツゴツとした感触に、母との違いを感じた。その表情に安らぎは無い。だが玉玲に抱かれて眠りについたとき、エリカは初めて飛燕の前で心からの笑顔を浮かべた。エリカに必要なのは自分ではなく母の温もり。そう感じた飛燕は、エリカとの決別の意味もこめて血に塗れた死鳥鬼へと戻る。それを察したエリカも、一度は別れを決意するものの、玉玲の言葉によって彼女は気付かされた。女にできるのは男を信じることだけ・・・ならば自分が誰を信じるべきかを。戦場と化した街並みを進み、死を目前にした飛燕と再会したエリカは、その腕にしがみつきながら泣いた。母が死んだときにすら流さなかった涙を溢れさせたのである。自らの哀しみを受け止めてくれる飛燕の前では、もうエリカは自分の感情を誤魔化す必要などなかった。それは、あの哀しきピースサインからの脱却でもあった。館へと戻り、飛燕に寄り縋って眠るエリカ。その寝顔は笑顔を浮かべていた。飛燕が母の代わって温もりを与えてくれる事を心から理解したエリカは、その硬い身体に初めて安らぎを感じたのである。

 しかしその安らぎは、ヤサカの手によって再び奪われることになった。飛燕との別れを察したエリカは、再び涙を堪えて生きねばならなくなった。必要の無くなったはずのピースサインが、再びエリカに哀しき笑顔を作らせてしまったのだ。だが幼くして多くの哀しみを超えたことで、彼女は成長した。懺悔に訪れたヤサカに対し「それ(勾玉)を守るかぎり いずれナチがあなたを殺すわ」と言い放ち、満面の笑みを浮かべたのである。偽りの笑顔でも、安らぎの笑顔でもない、女の怖さを含んだ笑顔。ナチに狙われているのは自分も同じことなのに、いや、同じだからこそ自分の恐怖を少しでも感じたらええねんとばかりの微笑みの死の宣告。この豪胆さは、飛燕よりも玉玲の影響が大きいような気もする。

 二次大戦が終了し、ナチスが解体されるまでおよそ6〜7年。もはやエリカの命を狙うものも居なくなったその時、彼女がどれほどの女傑へと成長しているのか、実に楽しみだ。