TOP

サウザー



登場:原作(85〜97話)TVアニメ版(58〜68話)、他多数
肩書:聖帝 南斗六聖拳「将星」 南斗鳳凰拳伝承者
流派:南斗鳳凰拳
CV:銀河万丈(TVアニメ版、PS版、AC版、イチゴ味)
   佐藤晴男(パンチマニア)
   石塚堅(激打2)
   大塚明夫(真救世主伝説、スマショ、リバイブ)
   関俊彦(天の覇王)
   神奈延年(北斗無双・真北斗無双)
   古賀一史(DD北斗之拳)
   浪川大輔(DD北斗の拳)
   東地宏樹(北斗が如く)
  [少年期]
   堀川亮(TVアニメ版)
   島ア信長(真北斗無双)

身体データ
身長:181cm
体重:98kg
スリーサイズ:140・90・102
首廻り:45cm

 南斗六聖拳のひとつ 南斗鳳凰拳の伝承者。帝王の星・将星を宿星に持つ。自らを「聖帝」と名乗り、巨大軍閥「聖帝軍」を組織しこの世の覇権を目論んでいる。一方で、聖帝十字陵なる巨大な陵墓の完成を目指し、多くの子供達を浚って建設作業に従事させている。北斗神拳秘孔が通用しない「帝王の体」なる肉体を持っているが、その正体は心臓や秘孔の位置が表裏逆という内臓逆位である。

 捨て子としてオウガイに拾われ、南斗鳳凰拳の修行に邁進。だが15歳の時に行われた伝承者となるための試練において、相手を師オウガイと知らず、その手にかけてしまう。深い哀しみに苛まれた結果、愛や情けを捨てることで、哀しみを得ない生き方を選んだ。

 核戦争後、聖帝軍を率いて覇権の道へ。聖帝十字陵建設のために子供達を浚い続け、それを止めんとするシュウ反帝部隊(レジスタンス)との戦いを繰り広げた。そんな中、シュウの頼みを受けて現われたケンシロウと対決。拳の勝負では劣ったものの、秘孔の効かない身体によって勝利を収め、瀕死の傷を与えた。

 十字陵が完成を迎えると同時に、レジスタンスのアジトを襲撃。抵抗勢力を制圧し、100人の人質をとってシュウを降伏させ、足の腱を切断した。その後、シュウに巨大な聖碑を担がせて十字陵を登らせ、登頂したその場で殺害。反抗し続けたシュウの手で十字陵を完成させると共に、その血を捧げさせることで十字陵の漆喰とした。その後、シュウの仇をとらんとするケンシロウと再び対決。しかし体の謎を見破られたことで、戦いは劣勢に。驕りを捨て、秘奥義・天翔十字鳳を繰り出すが、天破活殺によって打ち破られ、最後は苦痛を生まない北斗有情猛翔破を受けて敗北。自らにはまだぬくもりが残されていることをケンシロウから諭され、十字陵の聖室に隠された師オウガイの亡骸に寄り添いながら、遠き日のぬくもりを求めつつ絶命した。


 TVアニメ版では、メインキャラの中では珍しく、エピソードの変更や追加等は殆ど無かった。原作のカラーイラストでは銀髪になっているが、アニメでは金髪になっており、その後の殆どの作品でもサウザーの髪は金色で統一されている。



 『ラオウ外伝 天の覇王』では、自らの領土に侵攻してきた拳王・ラオウと、十数年ぶりに再会。配下であるユダの提案にのり、一旦はラオウに服従を誓うと見せかけ、直後にユダに拳王府を攻め落とさせる作戦を実行した。だがユダがラオウに一蹴されたため、結局自らラオウと闘う事に。秘孔の効かない身体を武器に深い傷を負わせるも、自らも大ダメージを受けたため、改めて休戦を提案。拳王軍と同盟を結び、相互不可侵の条約を交わした。
 アニメ版では、軍士であるサクヤの力を認め、聖帝軍に勧誘。しかし彼女が愛の為に闘っていることを知り、態度を豹変させて追い返した。後に、死ぬ間際のサクヤより、あなたは愛を捨てたが故に天を握る事ができないと予言された。
 小説版では、鳳凰拳には南斗29派が配下にいるとの記述がある。

 『レイ外伝 蒼黒の餓狼』では、先代の南斗水鳥拳伝承者・ロフウの処遇を決めるために開かれた南斗六聖拳謀議の場に参加。ロフウが覇を唱えれば拳王が動くとして、このまま放置しておくべきだという決定に賛同した。

 『ジュウザ外伝 彷徨の雲』では、キム北斗道場から破門される場面を、ジュウザと共に目撃。破門者を生かしたまま送り出す北斗の甘さを指摘した。更にジュウザが看護していた瀕死の鷲を一撃で葬り、無駄な希望を与える愛は残酷なものだと言い放った。

 『北斗の拳外伝 金翼のガルダ』では、かつて軍団を率いてビナタが治める南斗聖拳の村へと侵攻している様子が描かれた。

 『北斗の拳イチゴ味 サウザーGAI伝 南斗 of Meet』では、野盗に滅ぼされた村で唯一生き残っていた所をオウガイに発見され、そのまま養子として引き取られるというエピソードが描かれた。描写を見る限り、オウガイはサウザーを拾って直ぐに特殊な体に気付いているように見える。
 オウガイの死後、新たな南斗鳳凰拳伝承者となった事を他の南斗聖拳の拳士達の前で宣言し、圧倒的な強さを見せつけ、覇道を行くことを宣言した。




 最高のヒールに求められるものとは何か。絶対的な悪、驚異的な力、全てを裏切る謀略……求められる設定は数多くある。だがいくら設定が揃っていたところで、それが読者に響かなければ意味は無い。悪役とは、いわば憎まれ役。より多くの、より大きな憎悪を浴びたキャラクターこそが真のヒールなのだ。その場合、北斗の拳における最大のヒールは、このサウザーを置いて他にない。

 彼が読者からのヘイトを一身に浴びることになった原因。それは言うまでも無く、聖帝十字陵におけるシュウへの仕打ちである。目が見えぬというハンデを負いながらも子供達のために闘い続けたシュウ。そんな男が決死の覚悟で勝負を挑んできたにも関わらず、サウザーは拳を交えることすら拒絶した。人質という卑劣な方法を用い、戦わずして屈服させたのだ。そしてシュウの命綱とも言える脚の腱を切断したサウザーは、その歩行も困難な状態のシュウに巨大な聖碑を担がせ、それを十字稜の頂上まで運ばせた。更にその階段の脇に子供達を並ばせることで、敗北者としての羞恥の姿を彼らの目に晒したのである。そしてシュウが登頂したその瞬間、サウザーは部下達にその身を射抜くよう命令を下し、最後は自ら槍を投擲して止めを刺した。聖帝に反抗し続けたシュウ自身の手で、聖帝の権威の象徴である聖帝十字陵を完成させ、最後はその命を人柱として捧げさせる…。これぞまさに暴虐の極み。当時の読者の憎しみが、サウザーという一人の男に一極した瞬間だと言えるだろう。

 作中で加虐行為を行ったキャラクターは他にも居る。しかしその行為の対象者が作品屈指の善人であるシュウであり、かつその内容の厭らしさ、そして3週というロングスパンで行われた事情を考慮すれば、間違いなくサウザーの所業こそが最大の加虐行為だったと言えるだろう。同時にそれは、怪我から復活したケンシロウに、打倒サウザーを願う読者の気持ちが一身に集められた瞬間でもあった。ケンシロウが漫画界における伝説的なヒーローとなりえたのは、サウザーという強烈な悪が存在したからこそなのだ。これぞまさにヒールの生き様。その死を持って主人公を、そして作品を大いに盛り上げてくれたサウザーは、まさに北斗の拳史上最大にして最悪、そして最高の悪役であり、そして作品にとっての恩人とも言えるだろう。


 だがそれは、サウザー自身が望んだ生き方ではなかった。聖帝を名乗り覇道を行くサウザーであるが、彼はもともとは心優しい少年であった。彼の尋常ならざる非情さは、彼の「弱さ」の裏返しなのだ。

 サウザーが非情な性格になったのは、彼が愛や哀しみを否定する生き方を選んだからだ。だが同じような考えを持っていた男は他にもいる。代表的な存在としては、ラオウやカイオウが挙げられるだろう。だがラオウ様の場合は、愛や哀しみが強さに繋がる事を否定しただけであり、それらを排除したわけではない。カイオウは可也サウザーに近い思考を持っていたが、その下地には(ジュウケイの所為で生まれた)北斗宗家への強い憎しみがあり、悪堕ちも当然の結果と言えた。

 だがサウザーの場合は違う。彼が愛や哀しみを捨てた理由は、「師オウガイの死が哀しすぎた」、その一点であった。愛する師を己の手で殺してしまったという事実が、まだ15歳であったサウザーには背負いきれぬ程の哀しみとなり、とてつもない痛みとなって彼の身体を貫いた。そして彼は、その苦しみに背を向けた。痛みに耐えることを放棄し、痛みから逃げる生き方を選んだのだ。

 孤児であったサウザーにとっては、オウガイと生きた15年こそが人生の全てだった。だがそのあまりに幸せな日々は、サウザーに「哀しみ」を教えることを怠った。故に彼は、自らでは背負いきれぬ哀しみに直面したとき、どう対処していいか解らなかった。だからこそ彼は逃げた。愛を否定し、愛を滅ぼすことで、哀しみを生むことのない世界へと逃亡したのである。

 サウザーの非情さは、いわば彼が感じた哀しみの鏡写し。師オウガイの師に感じた哀しみの大きさが、そのまま彼の非情さとなって表れているのだ。その生き方こそが、哀しみを非情で塗りつぶす唯一の方法であると信じているから。サウザーにとって「哀しみ」は、もはや存在してはならぬ畏怖すべき存在。あの時に感じた痛みをもう二度と味わいたくないという恐怖心が、彼を更なる暴虐へと駆り立てているのである。「帝王に逃走は無い」と言いながらも、その実は哀しみの痛みから逃げ続ける弱者。それがサウザーという男なのだ。


 だが彼は、結局最後まで愛を捨てきることは出来なかった。どれだけ愛を否定し、哀しみを恐れようとも、師と過ごした日々のぬくもりを忘れられなかった。非情を貫き、哀しみを得ることのなくなった今の自分より、師と過ごした15年間の方が遥かに幸せだったことを、彼は知っていたのである。

 そういう意味では、彼は究極のヒールには一歩届かなかったと言える。最後の最後、師のぬくもりを思い出し涙したことで、彼は完全なヒールとなるチャンスを逸してしまった。だがそれで良いのだ。悪に身を染めるという方法で哀しみを誤魔化し続けてきたサウザーは、自らとは対極の生き方をするケンシロウと出会ったことにより、最後の最後に師の死という哀しみに向き合うことができた。聖帝十字陵などという紛い物でなく、その亡骸に擦り寄って涙することで、ようやくサウザーは師の魂を見送ることができたのである。それこそが、師オウガイの望んだ我が子の姿。愛すべき息子がヒールになっていく姿など、オウガイは見たくなかった。ケンシロウの放った有情の拳は、サウザーにぬくもりを思い出させただけでなく、オウガイの魂をも救済していたのである。

 聖帝の権威の象徴である聖帝十字陵は、サウザーの死と共に崩れ去った。だがそれは、彼の覇道の終焉を意味するだけのものではない。サウザーが十字陵に込めた真の意味は、「自らの愛と情の墓標」。だが最後にサウザーが師への愛を取り戻したことで、十字陵は陵墓としての役目を喪失し、この世から姿を消した。聖帝十字陵の崩壊は、サウザーが愛と情を葬ることに失敗したことの証であり、彼がヒールのまま生涯を終えられなかった事に対する「祝福」でもあったのだ。



一方でサウザーには「英雄」としての側面もある。
彼が救ったもの、それは「南斗聖拳の権威」だ。

 南斗聖拳は、北斗神拳と対極の関係にあり、五分の力を持つ拳法として登場した。しかしその頂点に位置する六名「南斗六聖拳」のうち、既にシン、レイ、ユダの3名が死亡。4人目として登場したシュウも割とあっさりケンシロウに敗れ、この時点で「北斗神拳と南斗聖拳は互角」という構図は殆ど崩壊したも同然であった。

 そこに登場したのが聖帝サウザー。南斗聖拳108派の中でも最強を誇る「南斗鳳凰拳」の伝承者であり、あの世紀末覇者拳王ですら戦いを避けたという凄まじい経歴の持ち主であった。ストーリーがそういう流れだったわけではないのだが、事実上彼は、「地に落ちた南斗の復権を一身に背負わされた男」だったと言えるだろう。そして彼は、見事にその重責(?)を果たした。拳王と引き分けたケンシロウが、今更南斗聖拳(笑)なんかに負けるわけないだろ(笑)という大方の予想を大幅に裏切り、「帝王の体」とかいう謎の力を借りてケンシロウを圧倒したのだ。最終的にはケンシロウのリベンジの前に敗れてしまうわけだが、読者の度肝を抜いたあの初戦の完勝劇は、南斗聖拳の権勢を取り戻すに十分な衝撃だったと言えるだろう。

 実際、この「聖帝編」は、南斗聖拳のためのストーリーであった。この章は、ケンシロウがシュウのレジスタンスと合流するところから始まるわけだが、その前章であるレイの死からの繋がりが全く無い。ケンが何故あの場所を訪れたかの説明が一切無いのだ。そしてそれは、サウザーを倒した後も同じ。この章ではシュウとサウザーが死に、聖帝軍が壊滅したわけだが、これらの出来事はこの後のストーリーに殆ど影響を及ぼしていない。北斗の拳の物語においてこの「聖帝編」は、ポッカリと浮いた存在になっているのだ。なんのためにそんな孤立したストーリーが作られたのか。それは、南斗聖拳に対する敬意の念。物語序盤から続く北斗vs南斗のクライマックスであり、物語を盛り上げてくれた南斗聖拳への感謝の気持ちが込められた盛大な南斗祭り。それがこの「聖帝編」なのだ。そしてその神輿の上に立ち、最前線で祭りを盛り上げてくれたのが、サウザーであった。これまでに登場した南斗拳士を遥かに凌ぐ圧倒的な実力を持つ彼が、北斗神拳伝承者を一蹴したことで、南斗聖拳は最後にどでかい花火を打ち上げることができたのである。

 ん?南斗最後の将?知らんな、そのような者は・…



●最強の矛と最強の盾

 サウザーの強さについて考える際、まず取り沙汰されるのは、あの「帝王の体」であろう。確かに北斗神拳の秘孔術を無力化できるというのは相当な強みであり、他の誰にも真似できない彼だけが持つ特殊能力であるため、注目されるのはわかる。だが、南斗鳳凰拳の真の強さはそこではない。そもそも帝王の体は、北斗神拳には有効でも、同じ南斗聖拳や他流派との戦いでは大したアドバンテージにはならない。南斗聖拳108派の頂点に位置し、同門派の拳では決して勝つことは出来ないと言わしめる"拳法としての強さ"が、鳳凰拳にはあるのだ。

 鳳凰拳はどちらかというと防御面のほうに注目されがちだが、実はそれに負けない程の驚異的な攻撃力を有している。攻撃面、防御面、双方において隙が無いからこそ、鳳凰拳は南斗聖拳最強の座に君臨できているのだ。

 ケンシロウとの初戦、サウザーは体の謎をもってケンシロウを退けた。この時、「北斗神拳が効かなかった」というインパクトに隠れがちだが、攻撃面にも注目してもらいたい。この戦いにおいてサウザーがケンシロウに与えた攻撃は、2度の極星十字拳のみ。そう、たった2発で北斗神拳伝承者を瀕死に追い込んでいるのだ。かつてシンは南斗獄屠拳の一発でケンシロウの四肢を切り裂き、戦闘不能に陥らせているが、あの頃のケンシロウはまだまだヒヨッ子だった。かたやサウザーと戦ったケンシロウは、少し前に拳王と引き分けに持ち込んだ程の男。あのラオウの剛拳ラッシュに耐えきるまでに成長したケンシロウを、僅か2発で倒したのだ。これはケンシロウと対戦したどんな相手でも成し得なかった事。つまりサウザーの極星十字拳は、北斗の拳に登場する全奥義の中でも最上位の破壊力を持っているという事なのだ。

 次戦の聖帝十字陵での戦いにおいても、その破壊力を垣間見ることができる。ケンシロウがサウザーの体に手刀を突き刺してリフトした時、ケンはサウザーの体の謎に気付いたが、同時に強烈な十字拳を受け、血だるまになって転げ落ちた。階段の上に横たわり、空ろな眼で痙攣するその姿は、ラオウ様やトキですらケンシロウの敗北を確信した程であった。この時、サウザーが余裕を見せずに直ぐ二度目の十字拳を炸裂させていれば、ケンシロウは再び2発で敗北していたことだろう。そして一度見れば拳を見切れるはずのケンシロウに、ここまで連続して致命傷を与えられている事自体が、この奥義の強さ、早さ、鋭さの証明と言える。

 攻撃面の強さは破壊力だけではない。自身が帝王の拳と語る「制圧前進」の型。その戦闘スタイルが、サウザーの破壊力をより活かしている。
 注目すべきは、サウザーがケンシロウに秘孔人中極を突かれた場面。あの時、秘孔を突いたことでケンシロウは勝利を確信していたが、逆にその身を切り裂かれていたのはケンシロウのほうであった。つまりサウザーは、ケンシロウに連続拳を喰らっているその最中に、十字拳による反撃を行っていたという事なのだ。これぞまさに制圧前進の精神。相手の攻撃を受けながらも前進して間合へと踏み込み、防御への意識が希薄になったその体に渾身の一撃を叩き込む。まさに「肉を切らせて骨を断つ」。皮肉なことに、その帝王らしからぬ戦法こそが、彼を帝王たらしめているのだ。


 一方の防御面だが、こちらは非常にわかりやすい。サウザー自身が不敗の拳と称する南斗鳳凰拳の秘奥義、天翔十字鳳。我が身を霞と変えるが如く相手の攻撃を空切らせ、同時に強烈な斬撃で相手を切り裂く―――。この奥義の存在だけで、鳳凰拳の防御面は無敵に近いと言っても過言ではないだろう。

 しかし帝王の誇りをかけたその拳は、北斗神拳奥義 天破活殺の前に打ち砕かれた。ケンシロウのパンチはスイスイを躱せていたのに、遠方から放たれた闘気の弾は回避することが出来なかったのだ。無敵に思えたこの奥義に、一体どのような弱点があったというのだろうか。そもそもサウザーはどうやって身動きの取れぬ空中で相手の攻撃を躱すことが出来たのか。

 サウザーがこの奥義を繰り出した場面・・・ケンシロウの攻撃を躱すその瞬間を注視すると、ある事に気付く。ケンのパンチを躱す前と後でサウザーの脚の前後が逆になっているのだ。躱す前は左足が前にあるのに、体が交錯した瞬間には右足が前に来ているのである。一見意味の無いように思えるこの変化こそが、天翔十字鳳が誇る回避力の秘密なのではないだろうか。

 画像から推測するに、サウザーが脚の前後を入れ替えるために要した時間はまさに一瞬。つまりサウザーは、とんでもないスピードで宙を蹴っているということだ。 これによりサウザーの左足付近にあった空気は物凄い勢いで後方に押し出される事になる。同時に、推進力を得たサウザーの身体は一時的に飛行速度を増していると考えられる。ただの蹴りならこうはいかないが、サウザーはケンシロウですら見えないほどの速さで間合いに踏み込める脚力の持ち主。その脚から生み出される蹴りは、通常では計れない威力を誇っているはずだ。

 それでも多少の推進力で100kg弱の身体がそうそうスピードアップするとは思えない。だがサウザーによると、天翔十字鳳中の彼の身体は「天空を舞う羽根」と化しているという。比喩的な表現とは言え、もし本当に彼の身体が軽くなっているのだとしたら、より推進力の影響を受けやすくなっているはず。あの蹴り一発でサウザーの飛行スピードが急激に増す可能性も十分考えられるのだ。この「瞬間的に飛行スピードを変化させる」という技術こそが、天翔十字鳳の回避力の秘密なのではないだろうか。



 野球のバッターは、ピッチャーがボールをリリースした0.25秒後には、その軌道やスピードからヒッティングポイントを予測してスイングを開始すると言われる。ひきつけて見定めてからではバットが間に合わないからだ。だがもしそのボールが途中で「急激に加速」したならば、もはやどんなバッターでも打つことは出来ないだろう。天翔十字鳳もこれと同じ。「空中での急激な加速」によって、相手が予測したヒットのタイミングをずらし、攻撃を空切らせる。これこそが天翔十字鳳が誇る絶対回避のメカニズムなのではないかと思われる。

 ならば、サウザーが天破活殺を喰らってしまった事も頷ける。奥義を受けたとき、サウザーは「な…これは!?」と口にし、見ていた兵士達も「ああ!なんだ、うしろの岩がふっ飛んだ!!」と叫んでいた。誰一人として何が起こったのか理解できなかったのだ。それつまり、天破活殺によって放たれた闘気が、誰の目にも見えていなかったということ。天翔十字鳳が「相手の攻撃に合わせて自らの飛行速度を変化させる」という奥義なのだとすれば、攻撃の発動が視認できない天破活殺は、まさに天敵と言える存在だったのだ。

 しかしこれは、天翔十字鳳が不完全な奥義だという事ではない。「遠方から目に見えない闘気の弾を撃って秘孔を突く」という天破活殺が反則級の性能を誇っているだけだ。それにもしサウザーが天破活殺の存在を知っていたなら、あれほど綺麗に秘孔を突かれることも無かったはずだし、一度でも失敗していればもう通用しなかっただろう。あの難しい奥義をたった一度のチャンスで成功させたケンシロウの勝負強さを賞賛すべきであり、この敗戦によって天翔十字鳳の評価が落ちることは無いのだ。いや、むしろこの結果は、天破活殺のような「相手に攻撃したことすら気付かせない技」でないと天翔十字鳳を破ることは出来ないということであり、この奥義がいかに回避困難かであるかを証明していると言えるだろう。


 ケンシロウを二発で倒すほどの威力を持つ極星十字拳。そして超一部のレアケースを除き、ほぼ全ての攻撃を回避可能な天翔十字鳳。この最強の矛と最強の盾を有していたからこそ、サウザーは南斗最強の男としての地位を確立できていたのだ。そしてその強さを見抜いていたからこそ、拳王様は彼との闘いを避けておられた。秘孔という優位性無しでは勝てる確証がないと判断し、戦わないという選択したことが、拳王様からのサウザーに対する敬意の表れ・・・その強さを誰よりも認めていたことの証なのである。



●サウザーは本当に「孤児」だったのか?

 心臓の位置が逆。秘孔の位置も表裏逆。サウザーが持つこの変な体の前に、ケンシロウはえらく苦しめられた。まさに北斗神拳に対抗するために創られたかのような身体だ。しかし、これは偶然なのだろうか。サウザーはオウガイの実子ではない。捨て子としてオウガイに拾われただけの、南斗の一族とは無関係の人間だ。そんな何処の馬の骨ともわからぬ子供が、偶然にも北斗神拳の天敵となりうる身体を持っていた・・・あまりに出来すぎた話ではないだろうか。

 ここで一つ仮説を立ててみよう。 確かにサウザーは捨て子としてオウガイに拾われた。だが実はそのサウザーこそが南斗鳳凰拳の正統な血筋の人間であり、先代伝承者であるオウガイの方が逆に血を引いていない「部外者」だったのではないだろうか。

 
南斗の中にはサウザーと同じ「完全内臓逆位」の身体を必ず持って生まれる一族が存在し、南斗鳳凰拳は代々その一族の中から伝承者が輩出されてきた。だが一時的に一族の中に男児が生まれなかった期間があり、その間だけは血族以外の人間であるオウガイが「つなぎの伝承者」として選出された―――。そんな裏事情があったのではないだろうか。

 北斗神拳と南斗聖拳は、言い伝えの上では互角とされている。だが実際は水影心などの反則級の奥義の存在により、北斗神拳の方が圧倒的上位に位置しているのが現状だ。しかしサウザーはケンシロウに勝利した。拳の勝負では遅れをとったが、あの「帝王の体」がそれをカバーしたのだ。つまりあの内臓逆位の体こそが、南斗が北斗と互角の立場でいられる所以。歴代の鳳凰拳伝承者が、皆あの身体を持っていたからこそ、南斗聖拳は「格」を保ち続けることができ、そして鳳凰拳は南斗聖拳108派の頂点としての座に君臨し続けていられたのではないだろうか。


 サウザーのほうが「血族」である理由。その根拠の一つとなるのが、サウザーとオウガイの才能の差だ。サウザーが15歳になった時、彼は目隠しをした状態で相手を倒すという試練において、師であるオウガイを見事打ち倒した。オウガイが手心を加えた、または高齢により拳が衰えていたという可能性もあるが、それにしても15歳で、しかも目隠し状態で師を倒すというのはあまりに強い。そして逆にオウガイは弱かった。この両者の才能の差を生んだのは、南斗の血の有無なのではないだろうか。北斗の拳の世界において「血筋」と「強さ」には大きな因果関係がある。南斗鳳凰拳の正統な血族であるサウザーには生まれながらにして拳の才能が、そして何の血も引いていないオウガイには凡人以上の才能は備わっていなかった。だからこそサウザーは、僅か15歳にして師匠越えという偉業を成し遂げることができたのではないだろうか。

 両者の対照的な性格も根拠として挙げたい。南斗鳳凰拳は、南斗六聖拳の中でも帝王と呼ばれし「将星」の拳である。にも関わらず、オウガイにはその「将」としての雰囲気が全く無かった。拳を教える時こそ厳しい顔を見せるものの、基本的には心優しいおじいちゃんであり、そこに帝王たる権勢は全く感じられなかったのだ。対してサウザーは、まさに帝王の名に相応しき振る舞いを見せた。聖帝軍の王として大軍を率い、覇道を邁進。自らの権威の象徴である巨大な陵墓を建設。その傍若無人な振る舞いや、敵を全て下郎と言い放つ不遜な態度は、まさに将星の名に相応しき帝王っぷりであった。この2名を比べ、どちらに南斗の帝王の血が流れているかと言われれば、そりゃあサウザーでしょうよ。

 そもそもオウガイには不可解な点がある。サウザーを拾うまで南斗鳳凰拳の次期伝承者を得ていなかったことだ。あの時点で既にオウガイはかなりの高齢だった。一子相伝である南斗鳳凰拳には他の伝承者は存在しない。オウガイが弟子を迎えなかった時点で、南斗鳳凰拳は断絶するのだ。にも関わらず、彼が弟子をとっていなかったのは、彼があくまで「つなぎの伝承者」だったが故。オウガイが子供を作ろうとも、鳳凰拳の血を引いていない彼の息子は次期伝承者にはなれない。故に彼は妻も娶らず、弟子も取らず、血族の中に待望の男児が生まれるのをひたすら待ち続けていたのではないか。

 また、オウガイの生活環境にも疑問がある。南斗鳳凰拳は、南斗聖拳の中でも最強を誇るリーダー的な存在だ。にも関わらず、その拳の伝承者にしては、オウガイの暮らしはあまりに牧歌的すぎた。別にそれが悪いというわけではないが、これもまた「将星」と呼ぶにはあまりに似つかわしくない、穏やか過ぎる生活と言える。
 しかし、その人里はなれた場所での生活にも意味があったとは考えられないだろうか。先述の通り、南斗の血族の者ではないオウガイが南斗鳳凰拳の伝承者となっていることは、一族にとって異例の事態。南斗六聖拳最強を誇る存在として、常にその威厳を保ち続けなければならない鳳凰拳側は、その事実を隠蔽する必要があったのだ。故にオウガイは、殆どその姿を人目に晒すことなく、あのような山奥でサウザーと二人で暮らしていたのではないか。


 そもそも「孤児だったサウザーはオウガイに拾われた」という設定自体が嘘だったのではないだろうか。南斗の血脈に生まれた赤ん坊のサウザーが、鳳凰拳伝承者"代行"であるオウガイのもとへと届けられ、「孤児という設定のもとで」育てられることになったとも考えられる。

 そしてもうひとつ、「嘘」と思わしきものがある。それは「南斗鳳凰拳は伝承者が新たな伝承者に倒されていく」という宿命だ。本当はそのような掟は存在せず、ただオウガイは「サウザーに拳を伝承する」という役目を終えたことで、その存在を抹消されたのではないか。長年にわたって鳳凰拳に正規の伝承者がいなかったという事実を闇に葬るため、その生き証人であるオウガイは、自らの役目を終えると同時に命を絶つよう非情なる使命を背負っていたのかもしれない。


 しかし、鳳凰拳の「権威」を守るためだったはずのその死は、逆に鳳凰拳の歴史を閉ざす結果となった。師を失った哀しみから逃れるため、サウザーは愛を捨て去り、そしてケンシロウの手によって倒されることとなった。プライドを優先したことが、鳳凰拳自体を断絶させてしまったのである。
 おそらく、鳳凰拳側がオウガイを「つなぎの伝承者」に選んだのは、彼の穏やかな性格を見込んでのことだったのだろう。いざ本家に伝承者が生まれた際、素直に伝承者の座を返還してくれる従順なオウガイこそが適役だったのだ。だがそのオウガイの持つ優しさ・・・本物の将星では決して持ち得ない彼のぬくもりが、鳳凰拳の血脈に初めて「愛」を教えた。それは、非情なる血脈の中に持ち込まれし"異物"となってサウザーの体を蝕んでいった。ケンシロウが「愛」を持ってサウザーを打ち倒すまでもなく、既に鳳凰拳はオウガイの「愛」によって終止符を打たれていたのである。

 あ、本気にしないでくださいね。



●サウザー遺伝子

 サウザー遺伝子(学名 Myo31DF - souther)というものがある。2006年、当時東京理科大学の助教授であった松野健治氏が発見した細胞で、サウザーのように内臓逆位の体を持つ突然変異体のショウジョウバエ(螺旋状である腸の渦の回転が通常と逆向きの個体)からその遺伝子が特定された事から、その名が付けられたらしい。これにより、いち漫画のキャラクターであるサウザーの名が、世界中の科学者達に知れ渡ることとなった。科学界においては、ケンシロウやラオウ様よりも、今やあのデコポチ金髪オールバック野郎の方が有名人なのかもしれない。

 この細胞に関し、自分なりに論文を読んでみて気付いたことがある。私も勘違いしていたのだが、内臓逆位を持つ個体がサウザー遺伝子を持っているのではないということ。むしろサウザー遺伝子は、サウザーのような肉体を生み出さないために存在しているのだ。

 サウザー遺伝子の役割。それは、これから生まれてくる個体の臓器が左右どちらに作られるべきか正しい指示を出す事である。サウザー遺伝子が正しく働いていれば、その個体はノーマルは肉体を持って生まれるのだ。逆に、このサウザー遺伝子がポンコツ化し「サウザー変異体」になってしまうと、正しい指示が出せなくなってしまう。その結果、臓器の位置が左右逆になって生まれるケースが発生するのだという。ただ、指示を出す奴がポンコツになるだけで、必ず左右逆になるわけでもない。右か左かの二択なので、臓器によって正しい位置になったり、逆になったりもするのだ。サウザーの場合は心臓以外の臓器は逆になっているのか表記されていないが、完全内臓逆位であると断言できる。なぜならその場合のみ血管も逆になるからだ。秘孔とはいわば血の流れ。血管が逆になっていなければ秘孔は通常位置にあることになり、帝王の身体として成立しないのである。。

まあ要するにですね、サウザーは
「サウザー遺伝子の持ち主」ではなく、
「ポンコツなサウザー遺伝子の持ち主」

だということです。
まあ一歩踏み込んだ北斗雑学としてひとつ。

※上記の解説は管理人が論文の一部を読んで独自に纏めたものであり、解釈が間違っている可能性があります。ご注意ください。